夏野

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日常&子供の頃は

6畳の和室と、窓から見える小さな庭だけが、わたしの世界の全てだ。
井の中の蛙。それがわたし。

部屋を出るなと厳命されているので、わたしの日常は大変つまらない。
わたしの部屋にやって来るのは、わたしの世話兼監視のための乳母と、時々兄。
本当は兄に会っては行けないみたいだが、兄は気にせずやってくる。
兄の来訪をいつも待っていた。
乳母はいい顔をしないけど、わたしは兄が来てくれないと暇で死にそうだから毎日来て欲しかった。

学校に通い始めると兄はあまり部屋にやってこなくなった。
わたしはもちろん何もせずに部屋にいろと言われているので、家の外どころか部屋の外にも出れない。
時々聞こえてくる、子供と思われる楽しそうな笑い声が、羨ましすぎる。ずるい。私もその会話に混ざりたい。そう思って妄想するも、どうしても外の子たちに混ざる自分が思い浮かばない。妄想の中くらい、わたしも友達が欲しいのに。

嫉妬心と諦めの、単調な日々。

そんな日常が、塀の上に現れた男の子によって変わった。

「頭がおかしくなるとまぼろしって本当に見るんだ」と感心してたら、「俺はまぼろしじゃねーよ」と返された。
兄よりも声が低くて、乱暴な言葉使いに驚いた。
びっくりしすぎて、そのまま倒れた。
体が熱いと思ったら熱があったみたいで、目が覚めた時には布団の中にいた。
さっきの男の子は、たぶん幻覚。
熱があったからだ。

「今日は元気そうだな」
「……わたし、今日も熱あるのかも。まぼろしが見える」
「だから俺はまぼろしじゃねーし」
倒れた日から三日たった今日。
男の子はまたやってきた。突然倒れたわたしの様子を見に来たらしい。

「ねぇ、せっかくだから何か話してよ」
「なにかって、なんだよ」
「楽しいとか、面白いこととか?」
「ないな」
「なんでないの?」
「じゃあ、お前はなんか楽しいことあったかよ」
「ない」
「そういうことだ。毎日同じことして、つまらねぇよ」

彼は定期的にやって来て、彼と話す時間だけは楽しい時間だった。

これが子供の頃のわたしの日常。


6/23/2024, 10:24:09 AM