あなたがいたから
子供の目はとても雄弁だった。
置いていかないで、と。
思わず舌打ちした。一人だけなら、誰かに飼われる形で、生きていけるかもしれないと思っていたからだ。
それでも頭に浮かぶ未来は悲惨なものばかりだ。一人でも生きていくのに必死なのに、自分よりも年下の女の子を連れて行けると思えなかった。
するとすぐに子供の目がどんどん滲んでいく。泣くのかと思えば声も出さずに涙が零れていく。
自分で拭うこともせず、俺を見て立ち尽くす。
その涙が、とても綺麗だと思ったのだ。
嫌な未来がどうしても頭をよぎるが、置いて行くことも出来なくて、生き残るために考えていた計画は諦めて、俺はその子供の腕を掴んだ。
「行くぞ」
子供の反応を待たずに歩き出す。
後ろで「ありがとう」と小さな声が聞こえた。
戦争だらけだった世界は、何ひとついいことも無く、多くの国と人間に被害だけを齎した。自治なんてあってないような世界で、子供二人で生きるのは過酷だった。
それでも生きてこれたのは、多分一緒にいてくれたからだと思う。
「あなたがいたから、わたしは生きてられるの」
昔よりも雄弁に話すようになった彼女が言う。
「それは俺の台詞だな。一人だったら、俺は生き残れなかった」
互いにありがとう、と言い合って、そして一緒に笑った。
6/21/2024, 9:49:09 AM