夏野

Open App
5/12/2024, 3:51:30 PM

【⠀子供のままで⠀】

いつか放り出されてしまうのかと思うと、怖くてたまらない気持ちになる。

今年で私は18歳になる。
成人の年齢が早まったから、今年で成人になる。つまりは、保護者が要らなくなる。
だから、今年の誕生日はものすごく来て欲しくない。
数年前ならまだ子供でいられた年齢なのに、と思ってしまう。

両親が家に帰ってこなくなったのは小学5年生くらいの頃。何故帰ってこないのか、私は未だに知らないけど。
幸運だったのは家の前で泣いていた私のことを、隣の拓也さんが見つけてくれたことだった。
寂しくなったら家に来ていい。その言葉が心の拠り所だった。

一軒家の中、一人でいると寂しくて、怖くて。
夜中に耐えきれなくて拓也さんの家に突撃したのが初めてだったと思う。それでも得体の知れない女児を受け入れてくれた拓也さんは凄い。

それから何がどうなったのか私は知らないけど、拓也さんは私の仮の保護者になった。学校の同意書はもっぱら拓也さんが書いてくれている。もう両親よりも親らしい。
自宅に帰るよりも拓也さんの家に入り込むことの方が多くなって。いつでも受け入れてくれたし、一人で寝るよりも誰かと一緒に寝た方が怖くないから。

でも、もう甘えられない。
……合鍵、返したら泣いちゃうかもな。

「美緒、なんかあったか?」

いつもの煙草の匂いのする、勝手知ったる拓也さんの家
。私は勝手にキッチンに入り込んで料理を作っていて、背後に拓也さんが現れた。

「なにもないよ」
「……何かあったら言えよ」

今更遠慮すんな、と頭をぐりぐり撫で回された。

ずうっとこの関係が続けばいいと思う。
子供のままでいたいなぁと、本気で思った。


end

※昨日の愛を叫ぶ。のお話。

5/12/2024, 1:15:49 AM

【⠀愛を叫ぶ。 】


煙草を肺の奥まで吸い込んで、深い溜息のように吐き出す。
疲れた、と全身で表すように、深く、長く。
そうすれば小動物のような、制服姿の小娘がピクリと身体を揺らした。

「ごめんなさい」
「謝るくらいなら、元ある場所に戻してこい」
「……だって、」
「だっても、クソもあるか。俺はそんな毛玉を自宅に置くつもりは無い」

酷く暴力的な気分になったので、乱暴に言った。
小娘の気分に合わせてやるつもりもない。気にしていたら話が進まないのは目に見えてる。

「……、拓也さんの意地悪」
「意地悪で結構」
「こんなに可愛いのに」
「……可愛い? それが?」
「可愛いでしょ。この子、トイプードルだもん」
「俺には毛玉にしか見えない。さっさと戻してこい」
「けち。もういいいよ」

美緒は毛玉を抱きしめて、睨み付けてくるが全く怖くない。無言で立ち上がって、部屋を出てった。

あいつ、戻してくる気ねぇな。
煙草を加えてさらに深く吸い込む。

どこで拾ったのか。俺の目には犬には見えなかったし、多分犬じゃなかった。美緒の目には犬に見えていたナニかは、得体の知れないものだ。

先程までの暴力的な気分は一瞬で霧散した。
迎えに行かないと。どこかに追いやっていた優しい気持ちが広がる。

短くなった煙草は灰皿に。
近所の学校から子供の帰宅時間を告げるチャイムが鳴った。
つまり、自分が保護してる小娘を迎えに行かなければならない。
行先はどうせ小公園だ。
小さい、滑り台くらいしかない公園。
美緒はそこに捨てられていたから、他に行くあてなんてあいつには無い。

毛玉を抱えた美緒は小公園の隅っこに蹲ってた。
無表情で俺の顔を見た美緒は、また「ごめんなさい」と言った。

「なにが?」
「ごめんなさい」
「理由もなく謝んな」
「……」
「お前が謝る理由はなんだ」

美緒は泣きそうな顔で言う。
「捨てないで」

闇の深い子供だと思う。
親に捨てられて、俺に拾われた。
ずっと愛に飢えている。だから定期的に俺を試す。

「おまえを捨てた記憶はない」
「この子も、」
「それはダメ」
「ケチ」
「分かってて言ってんだろ? それは犬じゃない。なんで拾った?」

得体の知れない生物を撫でる小娘を見下ろす。
「叫んでたから。置いていかないでって」

深いため息が出た。美緒の身体がビクッ と反応したから反射的に「お前のせいじゃねぇよ」と口から出た。

美緒の前に膝まづいて、頭を掴んで無理やり自分の胸に押し付け、頼りない背中をぽんぽんと軽く叩く。

「お前が持ってるのは毛玉だ。生き物じゃない。そんな大事に抱えなくていい」
「……うん」
「その手は俺の背中に回せ。出来るな?」

無言で美緒の手が背中に回る。
毛玉をようやく手放したから、毛玉が黒いモヤになり空気に混じって消えた。寂しいとか悲しいとか、そういう人の負の感情の集合体が形になっていたのだと思う。
消えたのなら、それでいい。

「帰るぞ」
「……はぁい」

少し気の抜けた返事が腕の中からした。

5/10/2024, 4:40:56 PM

【モンシロチョウ】

ジャンプして空へ飛び込む。
上手く風に乗れなくて必死で羽音を動かした。
落ちてしまえば、飛ぶ浮力が足りなくて上がるのが大変なのだ。
羽音をさせて飛ぶのは無作法だが、落ちてしまうよりは良い。

へたくそ、と誰かが言った。
知っているよ、そんなこと。
……。

羽を必死に動かしたのに結局地面に落ちた。
着地すら失敗して落ちたのは茶色の地面。最悪だ。
この身体は歩くことも上手くはなくて、のそのそと重たく感じる足を動かす。一刻も早く逃げなければ、きっとわたしは網に捕まってしまう。

飛んでても飛ぶのが下手で上手くなくて捕まってしまうのに、歩いてたら格好の餌食。
敵は網だけじゃない。
早く飛んで、自由な空へ行きたいのに、何故、下手な
んだろう。

夢なら覚めればいい。
目を閉じれば、いつも通りに空を飛べる。
……。
変な感じが胸に広がる。けど、さっきも下手だけど飛べてた。
だから、大丈夫。

そして目の前に広がる街を見下ろす。
これは夢なのか、現実なのか、見たこともない高さから見える風景。
いつも通りなら大丈夫。
そのいつも通りがいつの事か覚えてないけど、大丈夫と言えば大丈夫。

だって、黄金色に輝く空とビル街。
私はこんな風景を知らない。だから、ここはあたしの夢なんだと思った 。
今のあたしが人なのか、羽の生えた蝶なのか分からない。
わたしもあたしも、誰も知らない変な夢。

そしてわたしは一歩踏み出して空へと飛び出した。


ヒヤリと背中に嫌な感覚がして飛び起きた。
高層階ビルから落ちるリアルっぽい夢をみた。
夢の中の自分はピーターパンのように空を飛べると思い込んで、とても楽しくフリー落下を楽しんでいた。
飛べたのか落ちていたのか、もう分からない。
夢でも空を飛べていたら、楽しかっただろう。

……もう1度見られないかな?

二度寝を決めた私は2度目を決めて布団の中に潜り込んだ。
目を閉じる前、白色が部屋の隅で羽ばたいたような気がした。

5/9/2024, 3:22:23 PM


忘れてないよ、高校の頃のこと。
わたしもキミも、お互いどうしようもない悩みを抱えていた時代のこと。

絶交、なんて甘いものじゃない。
スパッと綺麗に関係を壊してから、キミと会話もしなかった。
あの頃はキミに辛い時間だったことだけは間違いない。

自分の愚かさも、
キミといて楽しかったことも、
苦痛を感じてたことも、
たぶんずっと覚えてる。

忘れられない、いつまでも。


5/8/2024, 2:24:55 PM



毎日変わらない日々を過ごしているのに、
1年後には良い方向に何かが変わっていたらいいのに。

何もかもを覚えてえていたいのに、
どうせ一年後には何も覚えてないんだから。

Next