夏野

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【モンシロチョウ】

ジャンプして空へ飛び込む。
上手く風に乗れなくて必死で羽音を動かした。
落ちてしまえば、飛ぶ浮力が足りなくて上がるのが大変なのだ。
羽音をさせて飛ぶのは無作法だが、落ちてしまうよりは良い。

へたくそ、と誰かが言った。
知っているよ、そんなこと。
……。

羽を必死に動かしたのに結局地面に落ちた。
着地すら失敗して落ちたのは茶色の地面。最悪だ。
この身体は歩くことも上手くはなくて、のそのそと重たく感じる足を動かす。一刻も早く逃げなければ、きっとわたしは網に捕まってしまう。

飛んでても飛ぶのが下手で上手くなくて捕まってしまうのに、歩いてたら格好の餌食。
敵は網だけじゃない。
早く飛んで、自由な空へ行きたいのに、何故、下手な
んだろう。

夢なら覚めればいい。
目を閉じれば、いつも通りに空を飛べる。
……。
変な感じが胸に広がる。けど、さっきも下手だけど飛べてた。
だから、大丈夫。

そして目の前に広がる街を見下ろす。
これは夢なのか、現実なのか、見たこともない高さから見える風景。
いつも通りなら大丈夫。
そのいつも通りがいつの事か覚えてないけど、大丈夫と言えば大丈夫。

だって、黄金色に輝く空とビル街。
私はこんな風景を知らない。だから、ここはあたしの夢なんだと思った 。
今のあたしが人なのか、羽の生えた蝶なのか分からない。
わたしもあたしも、誰も知らない変な夢。

そしてわたしは一歩踏み出して空へと飛び出した。


ヒヤリと背中に嫌な感覚がして飛び起きた。
高層階ビルから落ちるリアルっぽい夢をみた。
夢の中の自分はピーターパンのように空を飛べると思い込んで、とても楽しくフリー落下を楽しんでいた。
飛べたのか落ちていたのか、もう分からない。
夢でも空を飛べていたら、楽しかっただろう。

……もう1度見られないかな?

二度寝を決めた私は2度目を決めて布団の中に潜り込んだ。
目を閉じる前、白色が部屋の隅で羽ばたいたような気がした。

5/10/2024, 4:40:56 PM