「歌」 #12
去年の合唱コンクール。
500人の視線が集まる体育館のステージの前で。
私は指揮をした。
震える足、固まる指先、そしてあなたと絡む視線。
そのとき私の心拍数があがったのは、きっと緊張のせいだけではないだろう。
なんとか動かした指先が、みんなに歌を紡がせる。
ソプラノの主旋律、男声の裏拍。
それからアルトの、いや、あなたのハーモニー。
もっとあなたの声に集中したかった。けれど、そうするには少し邪魔が多かった。
だから今度は、私と二人きりで歌ってほしい。
あなたで満たされたいから。
君の隣にいたいから。
「そっと包み込んで」 #11
いつも思っていることがある。
好きなのは私だけなんじゃないかって。
告白をした。付き合った。隣に座った。手も繋いだ。寝落ち通話もした。ハグもした。
けれど、あの子が好きなのは私じゃなくて、愛をくれる恋人なんじゃないかと思ってしまう。
私じゃなくてもいいんじゃないかと思ってしまう。
あの子が見てるのは、私ではないような気がする。
それが不安で不安でたまらないのだ。
口を滑らせて不安を漏らした日。
「誰でもいいわけじゃない。あなたが好きで付き合ってるの」
死ぬほど嬉しかった。ずっとぽっかりと空いていた穴が埋まったような気がした。
その言葉が私をそっと包み込んだ。
「昨日と違う私」 #10
さて、ここで問題です。
今日の私は、これまでと何が違うでしょう?
私のこと好きなんだから、分かるわよね?
色付きリップ?
私、優等生だから校則違反はしないわ。
前髪の長さ?
寝坊したから寝癖そのままなの。悪い?
スカート丈?
確かにいつもより1回多く折ってるけど…。
残念!難しいもの、きっと分からないわ。
え?答えは何かって?ふふ、教えてあげなーい。
あなたには絶対教えない。言えないから。
あなたに好きって言われたのが嬉しかったなんて。
ずっと片思いだと思ってたのに。なんとなく付き合ってくれてるだけだと思ってたのに。
だから今日の私はこれまでの私と違って
「あなたに好かれた私」なの。
「Sunrise」 #9
私はずっと、極夜の季節に生きていたようだ。
生まれてこの方、太陽というものを見たことがなかった。というより、太陽に興味がなかった。
別になくたって生活に困るわけじゃない。ただ景色が少し変わって見えるだけだ。
なんて考えていた過去の自分が哀れでたまらない。
初めて見た太陽の、なんと美しいことか。彼女が照らす日常の、なんと輝かしいことか。
私の太陽が、私だけの太陽がこちらに微笑みかけてくれたときの喜びときたら、何物にも代えがたい。
私は彼女に恋をした。
それが極夜を生きた私の、Sunrise。
「空に溶ける」 #8
あなたは空色だ。
冷静さと誠実さを兼ね備えた青に、無垢な愛らしさを感じられる白、それからイタズラっぽい黄色をほんのちょっぴりだけ混ぜたような、そんな人。
けれど青空はあなたによく似合う。互いに溶け合うことなく、引き立て合う。
それはもしかしたら、あなたの誕生色がブラウンゴールドだからなのかもしれない。
茶色に赤と黄色を混ぜた、ちょうど土のような色。
天と地なんだから、そりゃ似合うに決まっている。
青、白、黄。 茶、赤、黄。
かけ離れた色。本当のあなたはどれだろうか。
どんなあなたであろうとも、私があなたを好きなのは揺らがないけれど。
ところで、私の誕生色はベリルグリーンなの。
あなたが空でも土でも、完璧に似合うと思わない?