「どうしても…」 #7
どうしても欲しかったの。
あなたが欲しかった。欲しくて欲しくてたまらなかった。喉から手が出るほど欲しかったの。
最初は気持ちを寄せてるだけで十分だったのに。
あなたに触れたくなって。あなたが他の人と話してるのが嫌になって。
少しずつ、少しずつ、我儘になっていったの。
そして、手に入った。
とってもとっても嬉しかった。けど、人間っていうのは欲深くて、やっぱり我儘になってゆくのね。
最初はあなたが私の気持ちを知ってるだけで十分だったのに。あなたの心がほしくなって。あなたが話してくれない日が怖くなって。
あなたが欲しい。
どうしても…どうしても、あなたが欲しいの。
「まって」 #6
あなたはいつも私の前を行っている。
前にいるから、私のことを見るのは難しい。
だから、少しだけ “待って” ほしい。
あなたはいつも私で心を動かさない。
別に好きじゃないから、私のことでは揺らがない。けれど、少しでもいいから “舞って” ほしい。
待って、舞って、待って、舞って、待って、舞って
いつもあなたのことばっかり考えているから、少しゲシュタルト崩壊を起こしてしまいそうだ。
「まだ知らない世界」#5
とびきりの笑顔、よく通る笑い声、髪を結ぶ仕草
私だけが知らないあなた
少し照れた顔、眠たげな声、本をめくる指先
私だけが知るあなた
苛立った顔、あでやかな声、授業中に落ちる瞼
まだ知らないあなた。そして、これから知るあなた
「手放す勇気」 #4
とても好きな、大切なものがあるとしよう。
ともすれば、それが己にとっての基準となる程の。
たとえそれが間違っていたとしても、世界の方が間違っているのだと錯覚する程の。
私は、それを持ってしまったようだった。
周りに話せば、返ってくるのは否定だけ。
「同性なんだから」「どうせ本気じゃないんでしょ?」「なんの冗談?」「歪んでるよ」「何それ」
手放すべきだと、手放さなくてはならないと分かっていた。
けれど、そんな勇気はないのだ。きっと捨ててしまったら私は私ではなくなるのだから。
そして、その必要もなくなった。仲間が、同じ人がいたから。私を、否定しなかったから。
私は、同性への恋情を持ってしまったようだった。
そして、手放さない覚悟を手に入れたようだった。
「光輝け、暗闇で」 #3
暗い、暗い、くらい、くらいくらいくらい―――
何もない暗闇の中、心がざわざわと耳障りな音を立てる。
何もないのに、何もないからこそこれ以上ないような恐怖の闇に侵食されてゆく。
ピロン♪
闇に侵されゆく音を遮るように、スマホからこの場に似つかわしくない音がなる。
私は縋るように手を伸ばす。
LINE・現在
―― ―――
まだ起きてる?
この1件の通知をきっかけに、この部屋と私の心に一筋の光が差す。
そしてそれは、一筋からあっという間に広がって、眩いほどの輝きとなる。
ざわめきなんてもう聞こえない。
私の全ては今、あなたの声だけに集中する。