「あったたいねぇ」
娘は手袋をした両手で自分の頬を挟んだ。手のひらに収まりきらない頬の肉がこぼれ落ちそうなほどはみ出ている。
マフラーとおそろいの、ピンクの、カワイイろくぶてがね、ほしいの!
誕生日でもクリスマスでもない。ただ防寒具としてピンクのマフラーを毛糸で編んだのが去年の話。娘が大切に使ってくれたおかげで、今年も引き続き同じものが使えている。
手袋は編むのが大変だから、子供服売り場で娘自身に選んでもらったものを使っていたのに。白とピンクの配色で、手の甲にリボンとボンボンが付いている手袋だ。娘はそれも大変気に入り、マフラーと同じくらい大切に使っていた。だから、今年も引き続き使えるくらいには綺麗なものだ。
それでも、娘は手袋をリクエストしてきた。
編み物が趣味なわけでもない。手芸も家庭科も得意じゃない。マフラーは手持ち無沙汰を紛らわすために編んだだけで、買い込んだ毛糸の量が子供用くらいしかないなかったのだ。ただそれだけ。
マフラーとね、おそろいだとね、ぜったい、ぜぇーったいカワイイの!
滅多にわがままを言わない娘の懇願に、私は折れるしかなかった。
初めての手編みの手袋はマフラー以上に工程が多かった。子供用だから自分の手に実際嵌めるわけにもいかず、娘の手を借りながら必死に編んだ。
編み始めた頃はまだ残暑に苦しんでいたのに、気がついたら年の瀬になり、完成した時には年が明けて厳しい寒波に見舞われている時期だった。
完成品を見た娘は、早速自分の手を入れて大はしゃぎだった。
毛糸はマフラーと同じものがたまたま今年も売っていて、どのくらい必要か分からないからたくさん買い込んだ。デザインも凝った編み方ができないから、五本指でなくミトンの形をしている。せめてもの気持ちで、手の甲には毛糸のリボンをつけてみた。既製品とは比べ物にならないほど地味な仕上がりだった。
「あっ!」
手袋に夢中になっていた娘が走り出した。パタパタとリビングを出たと思ったら、パタパタとすぐに戻ってきた。家の中で走っちゃダメと注意しようとした時、娘の手に握られたものが、私が編んだマフラーだと気がついた。
娘は自慢げにマフラーを掲げたと思ったら、次の瞬間、マフラーを首にグルグルと巻き付けた。結び方がわからないから、ただグルグルに巻き付けたから、髪の毛が乱れてしまった。
娘はそんなのお構いなしに、仁王立ちした。
「どうだ、カワイイだろ!」
どこで覚えたんだ、その台詞。
私は勢いもあって思わず笑ってしまった。気を良くした娘はその場でピョンと軽く飛んでまた大はしゃぎだ。
「かわいくて、あたたたいの!」
「あたたかい、ね」
「あたかかい?」
「あ、た、た、か、い」
「あーたーたーたーい!」
言えてない娘にさらに声を出して笑った。
私の手編みのマフラーと手袋を身につけた娘は、この瞬間きっと世界で一番可愛かったに違いない。
『あたたかいね』
見渡すかぎり何も目に映らない暗闇の中
地べたに這いずり 手探りで闇雲に探した
手に当たったものを片っ端から掴んでは
石ころや何かの破片ばかりで落胆する
いつしか自分が何を探していたのか
分からなくなるほど思考の海に堕ちていた
息が苦しい
頭が重い
頭を抱えた自分の膝に何かが落ちてきた
そっと摘んでみれば必死に探していた目的のもの
嬉しさのあまり涙を流せば
辺り一面明るい光に照らされた
闇が晴れた世界は色鮮やかに
とても美しく輝いてみえた
『未来への鍵』
集めてくっつけて何十年も繰り返したら
とても大きな星になりました
どの星よりも一際眩しく輝き
辺り一帯を照らしました
とても温かく気持ちをほぐしてくれる
そのような光でした
『星のかけら』
機種変更して真っ先にサイレントモードにするから
自分のスマホの着信音が何なのかいまだに分からない
何かの拍子でサイレントモードが外れたとき
大事な電話に無事出られるか少し不安
『Ring Ring …』
その人からの言葉を信じられた時
初めて味方になり
不思議と力が湧いてくるのだ
『追い風』
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どんな素敵なおばあちゃんになるか
一緒に歳を重ねてみたかった
『君と一緒に』