お見舞いに来てくれた君を対面せずに帰した。
風を移したら大変だし、申し訳ないから。
ぐずぐずと布団に潜って、仕方ないと諦めた。
夢にうなされて目が覚めた。
全身が汗でびっちょりと湿っていて気持ち悪い。
着替えなきゃと思いつつ、視界に入ったスマホを取った。
暗がりの中、一人で過ごす心細さに耐えられなかった。
「待ってたよ、電話くるの」
「寂しい」
「だろうね。行くよ」
「いいよ、もう遅い」
「タクシーとばすし」
「寝汗でグチャグチャだから会いたくない」
「それで?」
「声聞いているだけで十分」
「それで?」
君の優しい声に、私は縋りついていた。
「やっぱり会いたい」
「すぐ行く。あ、電話は繋いだままね」
電話越しにガサガサと音がする。多分慌てて身支度してくれているに違いない。
風邪を移したら申し訳ない。君にこんな辛い思いもさせたくない。だから来てほしくない。
でも会いたい。
「好き」
顔も頭も体もぐちゃぐちゃで、君に見せられたものじゃないけど。どこまでも優しい君に全て委ねてしまいたいと思った。
『風邪』
「明日休校になりますように」
テレビの天気予報と睨めっこして両手を合わせた。パンと大きな音が鳴った方が願いが届く気がして何度も両手を強く打ち付けた。
「明日はみぞれだから、電車動くよ」
背中越しに母の迷惑そうな声が聞こえた。私はお構いなしにダメ押しでパンと鳴らした。
翌朝、いつもより早く起きて部屋のカーテンを開けた。外は眩しいくらいに白く輝いていた。
「雪だ!」
興奮のまま窓を開けて、現実を目の当たりにした。私は渋々部屋を後にした。
休校の連絡はどこからも届かなかった。
『雪を待つ』
「何でイルミネーションとかライトアップとかって冬なんだろう。こんなに綺麗なんだから年中やってもいいのに」
「集るからじゃね?」
「え、人が?」
「蛾?」
彼女が苦虫を噛んだ瞬間、スマホを握った俺の手が動いた。
『イルミネーション』
注がなすぎて干からびることもあれば
注ぎすぎて腐ってしまうこともある
君と愛の花を咲かせることはできるだろうか
『愛を注いで』
あなたの心が私から離れるのと
私が自分の心を見失うのは
きっとあの時がきっかけだったね
『心と心』