歯を食いしばって
拳を握りしめて
血を滲ませながら
上を向いて
無理矢理口角を上げて
声を震わせながら
泣き出さずに
その場を耐えたあなたが
どうか報われる世の中に
『泣かないで』
空気が締まって体の芯に冷えが届く。
吐く息は白い蒸気になって視界を曇らせる。
衣服の隙間から入り込む冷たい風に身震いしつつ、黄緑色に光る地平線を眺めながら暗がりの街を歩いた。
「なぁ、肉まん食わねえ?」
「俺おでん」
「やべえ、金あっかな」
「お前チャージしてねえの?」
夏はスナックのチキン一択だったのに、湯気立つものばかり選ばれるようになると、ああ、冬が始まったなって思う。
「矢野、お前何する?」
「あんまん」
「お前ほんっと甘いの好きだな」
あたたかい光、美味しそうな出汁の香り。
そんな誘惑に負けて、俺たちはまんまとコンビニへ吸い込まれていくのだ。
『冬のはじまり』
まだ始まってすらないのに
あなたと歩む人生を
勝手に終わらそうとしないで
『終わらせないで』
「親に感謝するのは当たり前です」
「ここまで育ててもらった感謝を伝える日ですよ」
「なんで素直になれないんですか?」
こちらが大人げないほど
親に反抗し続けていると
信じて疑わない彼女
その真っ直ぐな目に
私はたじろいで口を閉ざした
きっとこの子は親の愛情を一身に受けて
曲がらないよう丁寧に育てられてきたんだな
だから親との確執がある私が
ただ素直になれない大人にしか見えないのか
「それはとても良い親御さんね」
無理矢理口角を上げて目を細めた私に
彼女は笑顔で頷いた
この子と私は別世界を生きている
そう認識して傷つかないために心を遠ざけた
『愛情』
仕事から帰ると熱っぽくて
体温計で測ったらほんのちょびっと熱が出ていた。
でも明日はシフト上どうしても休めないから
気合いと解熱剤で下げて
翌日も出勤していた頃が懐かしい。
だからといって誰があの頃に戻りたいと言いますか。
体調不良で休める世の中になって私は嬉しいです。
『微熱』