先週一気に寒くなったものだから
コートをクリーニングに出して
洋服を入れ替えて
羽毛布団を干して
タイツやヒートテックを買い足したのに
いやまだ昼間暑いんだけど
朝晩もそんなに冷えないし
どうりでコートが売れないわけだ
『衣替え』
私とあなたの距離は近いようで遠い
色んなところから飛び交う歓声に紛れて
負けじと声を張ってあなたを呼ぶ
翌日声が枯れるとわかっていても
ほんの一瞬あなたの目を見たいから
めげずに何度も呼ぶ
けれどあなたは一度もこちらを見ることはなかった
ああ 今日が終わってしまう
どうせ明日も来るからと
明日の方が聞こえるかもと
必死に自分を励ましていたら
あ
いま
こっちみ
私の絶叫が会場に響き渡った
『声が枯れるまで』
始まりの一歩を誰よりも早く踏み出せる
あなたの勇敢な背中が眩しくて目を細める
『始まりはいつも』
容姿も性格も何もかも
私とあなたが同じ人間で
全く違う人だから
ほんの一瞬目を奪われた
『すれ違い』
アラームの音で目が覚める。けたたましく鳴り響く音を手探りで消して、私は顔を枕に埋めた。起きなければいけない。頭ではわかっているけれどいざ体を起こすとなるとどうにも時間がかかる。
今度は足で探ってカーテンを足先で引っ掴んだ。ぐっと蹴伸びをするとカーテンが少し開いて、窓から降り注ぐ日の光を浴びた。直射日光を浴びているわけではないのに、浴びただけで体が軽くなるから日光は不思議だ。私はようやく体を起こし、少し重くて澱んでいる空気を入れ替えようと、窓に手を伸ばした。
--クーットゥルトゥルトゥルトゥー
「なんて?」
窓を少し開くと、聞こえてきた鳥の鳴き声に思わず首を傾げた。鳴き声の主は、ベランダの柵に止まり、向こう側にいる仲間たちに何か訴えかけるように鳴いている。いかんせん早口な鳴き声だから、クートゥルトゥルともピーピロピロともツークツクツクとも聞こえる。
何度も何度も激しく鳴く鳥は、見覚えのない姿をしている。大きさは鳩くらいだろうか。よくベランダへやってくる雀よりふたまわりくらい大きい。羽の色は地味な色で、尻尾が少し長いような、標準くらいのような微妙な長さだ。
まぁ、そのうち飛んでいくだろう。
そう思って身支度を準備し始めた。
しかし、想像以上に鳥はよく鳴き続けた。顔を洗って歯を磨き、ご飯を食べて化粧まで済ませてしまった。その間、ずっと鳥は鳴いていたのだ。これだけ繰り返し鳴いているのに、結局クートゥルトゥルなのかピーピロピロなのかツークツクツクなのか、はたまたリズムすら違うのかわからなかった。
鳴き声を聞いているうちに、私はその鳥の正体が気になってしかたなかった。
飛び立たないように、そっと窓へ近づいた。掛けっぱなしのレースのカーテンに手をかけて、ゆっくりと引っ張った。
「あ、」
すると、鳥は気配を察したのか急に飛び立ったのだ。秋晴れのうっすら雲がかかった青空へ、翼をはためかせた後ろ姿はあっという間に見えなくなってしまった。
私は結局正体が分からずじまいで落胆した。次の晴れた日にまたやってくるだろうか。
『秋晴れ』