湯船に浸かっている時だったり
髪の毛を乾かしている時だったり
動画見ながらストレッチをしている時だったり
真っ暗な部屋の中で目を瞑った時だったり
失敗したこと
後悔したこと
辛いこと
恥ずかしいこと
死にたくなったこと
短い人生で経験したことが
ふとした瞬間に蘇る
どれも鮮明だから追体験のような感覚になる
頭を振ってなんとか回避しようとするけど
時間が経てばまた脳によぎる
紙に書いたり「大丈夫」と言い聞かせたり
片っ端から試したけど今のところ効果はない
なぜこんなことばかり覚えているのだろう
繰り返し失敗する私への戒めか
ただ息が苦しいだけだから忘れたいのに
なぜ楽しい思い出は全然思い出せないのだろう
生きる糧にしたいから忘れたくなかったのに
『忘れたくても忘れられない』
包み込まれると
温かくて優しい気持ちになる
やがてウトウトと頭を揺らすと
頭上から笑い声が降ってきた
「さあ おやすみなさい 良い夢を」
彼女はひだまりのような儚い人だった
『やわらかな光』
失せ物 自ずと見つかる
部屋の四隅 チリひとつなし
鞄の中 カケラも無し
玄関前 虫の死骸に悲鳴
マンションの階段 蛾と格闘
時間 迫り来る故捜索断念
電車の中 電鉄へ問い合わせ
それらしき失せ物 何も出ず
更衣室 もしや傘立ての下と疑う
気の迷い 頭振る
インフォメーション もしや届けられていると疑う
電話越し 苦情に気落ち
家にある 言い聞かせる
絶対ある 見つけてやる
私と真希ちゃん* マジ卍
誓って通る 自動ドア
睨みつける 掲示板
隅にぶら下がる 遺失物
私の真希ちゃん 導かれる
「いやーよかったー!
ロッカーの鍵なんて総取り替えになるだろうから下手したら云万円掛かったかも。
やっぱり真希ちゃん付けといてよかった! 真希ちゃんと私、そんじょそこらの絆とはひと味違うもんね、もうマジ卍って仲だもんね。
拾ってくれたマンションの善良な住民さん、丁寧に飾ってくれた真面目な管理人さん、マジでありがとうございます!
ホントもうありがとう世の中! ありがとう優しい世界!」
『鋭い眼差し』
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*真希ちゃん
……失せ物のロッカーの鍵に付けていたキーホルダーのキャラクター。漫画『呪術廻戦』の禪院真希。
もっと高くと望んでいた場所へ来た
全く違う景色なのだろうとは思っていた
確かにこれは見上げるだけでは見られない景色だ
けれど今にも崩れそうな足場
雨風、雷に煽られる恐怖
見渡す限り誰もいない孤独
急に足が震え出した
自分が望んだ景色はもっと人で溢れていたはず
なぜ自分は今ここにいる?
足元を見てくらりと眩暈がした
重心がずれて体が傾く
自分は空へ投げ出された
ようやくこの恐怖から逃れられる
そう思うと自然と口角が上がった
地上へ着くにはまだ遠い
『高く高く』
内気で引っ込み思案
人の視線を感じると途端に縮こまってしまう
そんな子供だったから
街中で見かける子供みたいに
見るもの全てに目を輝かせて
大はしゃぎしてみたい
『子供のように』