新生活ダンボールで窓覆う
明日には全部整えたい
『カーテン』
なんで泣いているかなんてその時は分からない
ただ気持ちの起伏を鎮めるために涙を流してる
あの時、なんで泣いたんだろう?
と泣き止んでから考えて
理由を後付けする時もあるけど
思い当たる節すら涙と一緒に流したから
やっぱり分からないんだよね
『涙の理由』
先日、『CLUB SEVEN another place』というステージを観てきた。
ステージ、と言い表しているが、多分ジャンルはミュージカルである。いかんせん、このステージはやることが多い。
『CLUB SEVEN』シリーズは、昨年で20周年を迎えた。演出、構成、振付等、ステージにまつわるアレやコレやは座長の玉野和紀さんがされている。歌、ダンス、演劇(ミュージカル)、スケッチ(ショートコント)など、エンターテイメントの詰め合わせを豪華キャスト陣でお送りしている。
記念すべき1回目の公演から出演しているキャスト陣は「レジェンド」と評されている。スケジュールの都合上、毎回出演されているわけではない。今回の21回目公演では吉野圭吾さん、東山義久さん、西村直人さんが玉野さんとともにレジェンド組となっていた。
このステージの内容だが、実はAパターンとBパターンの2種類ある。一幕の一部分の演出が変わるそうだ。私は今回Aパターンの公演を観た。ロングラン公演や不朽の名作のリバイバルだとおおよそ同じ内容だが、『CLUB SEVEN』シリーズは全て内容が異なる。そして、毎回が濃い。
一幕のオープニングはテーマソングに合わせて激しいダンスが披露される。この時着ているロングコートがなんとカッコいいことか。
続けて玉野さんの鉄板演出であるタップダンス。キャスト全員揃ってステップを踏む場面はとても華やかだ。玉野さん演出の舞台は全てにおいてそうなのだが、キャストの限界まで踊らせることが多い。
オープニングが終了すると、スケッチという短い作品(私はショートコントと呼んでいた)が続いていく。主にテレビ番組やドラマのパロディが多い。それをコント(観客のウケ具合がどうにもコント)として上手い具合に落とし込んでいる。
いかんせん20年以上続いているステージだ。お馴染みのキャラクターが個性を発揮していく。そして女性キャストがいるにも関わらず、やたら女装が多い。ベテランも新人キャストも等しく女装する。
また、アドリブも多い。日替わりのアドリブコーナーは一幕終盤で用意されているものの、他の場面でも「ここアドリブでは?」と感じる部分がある。なぜなら座長もキャストも舞台上を自由に動き回るからだ。テンション任せに勢いよく隅々まで動き回るものだから、何度も共演しているベテランキャストですらドン引きしていたりする。役になりきる、よりもキャストの個性が色濃く出るステージなのだ。
怒涛のアドリブ合戦の後、おそらく昨年から復活した客降り演出がある。これは定番のキャラクター「タマコ」と「ニャンコ」のイケイケギャル2人が客席に降りてインタビューするコーナーだ。もちろん、ギャル2人は女装した玉野さんと西村さんである。インタビューに答えたお客さんはタマコから飴やラムネなどお菓子がもらえる。私が観た回は鹿児島や長崎から来た方々だったり、7thから観に来ている古参ファンの方だったので、大盤振る舞いにいくつもあげていた。
休憩の後、二幕はいつもクラシカルなショートミュージカルから入るのだが、今回はキャスト紹介からだった。キャストは皆オリジナルTシャツにジャージ姿で一人一人登場した。軽快なトークと気安いやり取り、そして時を止める摩訶不思議なギャグが披露される。観客は時に大笑いし、時にざわつき凍りついた。
トークの後は『CLUB SEVEN』の醍醐味、「五十音順メドレー」に突入。こちらは曲の歌い出し(もしくは曲のタイトル)の最初の文字が五十音順になっている。次々と歌われていく曲は、テレビでよく聴く定番曲からSNSでバズった最近の曲まで幅広い。ただ歌うだけでなく、曲に合わせてスケッチのようなネタが披露される。CMソングは全てパロディで。アイドルソングはモノマネで。女装に着ぐるみ、マツケンサンバⅡ。とにかく目まぐるしい。観客はここ最近グッズで登場したペンライトを推しキャストカラーに変えて振っていた。
ここで目の前の席に座ったご夫婦の、通路側に座っていた男性客にハプニングが。『エースをねらえ』のお蝶夫人になりきった北翔海莉さんがすぐそばまで降りてきたのだ。真後ろに座っていた私が(ほぼ)真横にいる北翔さんに向かって「かわいいー!」と迷惑にならない程度の声量で連呼していたが、多分聞こえていない。そんな北翔さん、振りが終わってステージへ戻る瞬間、いきなり前の男性客の肩をガシッと掴んでこう言った。
「私、可愛い!?!!?!?」
可愛いですよ。可愛いですけども勢いと圧が強い。
圧倒された男性客は大きく頷くも、多分言葉は出ていなかった。男性客が頷くのを確認して北翔さんはニコッと笑い、ステージへ駆けて行った。嵐みたいな人だった。
そんなメドレーも終盤に差し掛かり、バラード曲に乗って最後の客降り。会場だった有楽町よみうりホール最大の特徴である「舞台から2階席がスロープで繋がっていて外に回ることなく登って行ける」その強みを活かしてキャストが駆け上がる。多分鈴木凌平さんと北翔さんだったと思う。今回の『CLUB SEVEN』の元気なツートップだったはず。
今更だが私は下手側の通路横に座っていた。(有楽町よみうりホールは構造上1階席の通路が4本ある)そんな私の前の前、さっき登場した男性客の前に座る女性客。ペンライトのカラーは水色で、吉野さんのファンの方のようだ。楽しげに振っていらしたら、なんと女性客の目の前に吉野さんが通ったのだ。ペンライトの色に気がついた吉野さんは満面の笑みで女性客とハイタッチ。こんなに喜ばしいファンサービスを間近で見られるとは思わず、私も「わぁ!」と見惚れてしまった。
見どころ満載だったメドレーもいよいよ最後の曲へ。最後の曲は毎回決まっていない。SMAPの「世界に一つだけの花」だった時もあれば、嵐の「One Love」だった時もある。今回は、ミュージカル『RENT』の「Season of l Love」だった。日本版の『RENT』といえば若手舞台俳優たちで演じられているイメージだ。だから、『CLUB SEVEN』に出演する舞台俳優界隈のベテラン勢がこの曲を歌うとは思わず、私は目を見開いてしまった。全体として重厚的なハーモニーはなんだか新鮮で、心にジンときた。
とまあ、一丁前にミュージカルのレビューをしてみました。時間オーバーしながらも長々書いてしまってすみません。
『CLUB SEVEN』は舞台やミュージカルのエンターテイメントを詰めに詰め込んだような作品です。キャスティングされた俳優陣は、普段大きな舞台で重要な役(敵役だったり、脇役ながら見せ場がある役だったり)を演じられています。(主役は過去に経験済み)色んな舞台やミュージカルを観に行っているうちに「あれ、この名前あの公演にもなかった?」と頻繁にお見かけする方々ばかりです。
ですが、舞台俳優さんってテレビの露出が非常に少なく、大衆に知られている方はほんの一握り。『CLUB SEVEN』のキャストさんの名前を畏れ多くも出させていただきましたが、皆さんほとんど知らないと思います。そんな知らない俳優さんしか出ていない舞台を「面白いらしい」だけで観に行くのってすごく勇気が入ります。だから「観に行ってください!」とは言いません。
ただ私がミュージカルを観るたびにどれだけ楽しんできたのか、聞いてください!!
今後、もしかしたらまたレビュー書くかもしれませんので、その時はまた読んでくださいませ。
『ココロオドル』
仕事が繁忙期に入った。毎年のことだから覚悟して構えてはいたけど、いざ忙しくなってくると毎年慌てるのは何故だろう。毎日やることは変わらないのに、そのサイクルが速まって、かつイレギュラーなことが発生すると途端にてんてこ舞いになる。
この時期は残業に残業を重ねている。不思議な日本語に見えるかもしれない。でもその表現がピッタリだ。文字通り、朝から晩まで働くし、休日は返上して出勤する。厄介なのは流行りのリモートワークに切り替えられない業種というところ。朝早く会社へ行き、夜遅く寝に帰る日々だ。
歳を取ると無茶ができなくなる。本当にその通りでこの繁忙期が過ぎると体に支障をきたしている。毎年同じ時期に顔を出すようになったものだから、かかりつけ医に「恒例行事だね」と笑われてしまった。医者のジョーク、分かりにくい。
でもある程度は無茶しないといけない時がある。部下に負担がいき過ぎている時だ。社会人数年目程度の子たちの中で、断りきれなくて請け負ってしまう子が毎年出てくる。毎年だ、毎年出るのに配慮できない教育担当の社員がいる。
直属の上司である僕からの業務だけでなく、他部署とも連携して行う作業があるからそれを細分化して仕事を振っているのだろうけど。細分化した仕事も請け負ってくれる子とのらりくらり躱す子がいて、偏りができてしまうのだ。
口酸っぱく言っても効かないものだから、自ら助太刀に出るしかない、と仕事を手伝うのだ。部下の分も、新人の子たちの分も。遠慮する部下たちに「僕だってこういう仕事できるんだよ!」と明るく振る舞う。
そうして、定時はまた過ぎていくのだ。
「ただいま」
そっと鍵を回して、ドアをゆっくり引く。なるべく音を立てないように、でも素早く中へ入ってドアを閉めた。戸締まりまでやって、ようやく息をつくことができた。
家だ、我が家だ。
連日の仕事でテンションが振り切れていて、今すぐ駆け回りたい気分だ。とっくのとうに日を跨いでいたので、音を立てないようにコソコソ歩いた。
寝室でスーツを脱いでパジャマに着替える。あとは風呂入って軽く何か胃に入れて寝るだけだ。わざわざ部屋着を挟まなくてもいいだろう。
洗い物を腕に抱えて部屋を出ようとして、ふと後ろが気になった。
寝室はクイーンサイズのベッドが一つだけ置いてある。そこで僕と妻、四歳の娘の三人家族で川の字になって寝ているのだ。
僕は息を潜めてベッドに近づいた。僕が仕事で帰りが遅いから、妻は奥の窓側で寝ていて、娘は僕と妻の間に挟まれて寝ている。
ベッドを覗くと、掛け布団から大きくはみ出た娘の足が見えた。寝ている間に上下逆さまになったようだ。妻は大の字になっていて、おそらく娘の下敷きになっているらしい。掛け布団だけは、何故かしっかり被っているものだから思わずクスッとしてしまった。
娘の顔を掛け布団から出してあげ、頭を枕に乗せてあげる。娘は変わらずスヤスヤ眠っている。ふっくらとした柔らかい頬を、僕は指でなぞった。
結婚は二十代で早々にしてしまったが、子どもはなかなかできなかった。不妊治療に二人で通って、たくさん喧嘩して、たくさん泣いて、何度も諦めようとして。
「でも、やっぱりあなたとの子どもがほしい」
妻は泣き疲れてぼーっとしたまま、そう呟いていた。こんなにつらい思いをするなら、一層のこと二人で幸せを探しながら歳をとっていこうと提案した時のことだった。
ただ子どもがほしいんじゃない、あなたとの子どもだからほしい。
妻の目から意思が見えて、僕はその妻に応えたいと思った。僕と妻の子どもを諦めないと、覚悟を決めた。
そしたら案外あっさりと子どもを授かったから拍子抜けした。知らせを受けた時はあまりの嬉しさに二人で一晩泣いたものだ。
元気に生まれてきた娘は、やはり可愛かった。将来、周りの友達のご両親よりも年寄りな自分の両親にショックを受けるかもしれない。早いうちから介護が云々聞かされるかもしれない。老後は娘に迷惑をかけないように、と今のうちから少しずつ準備しているけれど、今のご時世どうなっていくかわからない。
今は自分たちの問題よりも、娘が元気に成長していけるようにしなくては。
もちもちと柔らかく、きめ細やかな肌触りが癖になる。妻も同じ頬を持っていて、若い頃はしつこいくらい触っていつも怒らせてしまった。娘もきっともう怒る年頃なんだろうな。寝ている最中に触ったなんて知ったら、きっとショックだろう。
頭では理解しているが、触る手が止まらない。そのうち癒やされたのか、ウトウトし始めた。まだ風呂に入っていないし、何か食べないと空腹で眠れない。
僕は自分の意思とは別に、体を起こすことなくベッドに寄りかかったまま、意識を失った。
次に意識を取り戻した時、心は軽いのに体の節々がバキバキと鳴り、悲鳴をあげてしまった。
『束の間の休息』
あなたの手は大きい。
私の手のひらなんて覆い隠してしまうくらい。
あなたの手を両手で掴んで、ぎゅっと力を込める。
「何やってんの?」
あなたは痛がる素振りもなく、笑って私の奇行を見守るだけ。祈るようにあなたの手を握る私とは正反対。
危険な現場で数えきれないほどの命を救ってきた大きな手。
どうかあなたのことも助けてくれますように。
『力を込めて』