「ありがとう」と「ごめんなさい」を散々言って
どうやって話を切り上げようか迷っているうちに
だんだん気まずくなっていく空気の中
「またね」
会えるかどうかは分からないけど
会いたくない人には絶対言わない言葉
『さよならと言う前に』
コントラストの激しい青空と大きなわた雲から
少しトーンを落とした青空とわたを千切った雲へ
そろそろ秋支度なのかな
『空模様』
「鏡よ鏡。世界で一番美しい人は誰?」
「わからない」
「この世界でもっとも美しい人よ。本当にわからない?」
「はい」
「おかしいわね。本当に美しい人を思い浮かべている?」
「はい」
「ほら、思い浮かべているんじゃない。それは人でしょう?」
「はい」
「男性ですか?」
「部分的にそう」
「部分的にそう!? まぁ今は多様性の時代らしいから性別は問わないのかも」
「はい」
「じゃあその人は私と会ったことがある?」
「多分違う」
「会ったかどうかは把握してない、と。なら私とは似たところがある?」
「いいえ」
「私とは対極に位置する美人。それなら交わらないのも納得かも」
「はい」
「でも全然分からないわ、降参。一体誰を思い浮かべていたの?」
「あなたの想像する人物です」
「名を出せって言ってるの!!」
ガシャン
『鏡』
成長していない幼心
漠然とした将来の夢
責任が伴わない空っぽな自分
今のままでと未来を思い描いても
昔の姿で出来上がってしまう
私が思う今が、他人にとっては昔だから
私だけ、置いてきぼり
『いつまでも捨てられないもの』
誰にもバレないようにゴミを拾えた日。
人間らしいことができたと無性に嬉しく思う。
『誇らしさ』
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ひたひたと一歩ずつ足を進める。
滑らかな海水の感触が心地よくて、全身で浴びようとさらに歩む。
海水が腹を覆った時、急に冷たい感覚が全身を襲った。腕をさすると鳥肌が立っていることに気がついた。
このまま沖まで進んでしまおうか。
それともやはり引き返すべきか。
立ち止まって悩んだのはほんの一瞬だった。沖を見れば、暗くて深い色に目を奪われる。あの奥に何が隠されているのか途端に気になって仕方ない。まるで吸い込まれるように足を動かした。
瞬間。
「何やってんだよ!」
ドン、という音と後ろからの強い衝撃に前のめりになり、海面へ倒れ込んだ。バシャンと派手な音と水飛沫をあげた俺は、何も構えていなかったため浅瀬にも関わらず溺れかけた。
もがきながら手足のつく場所まで辿り着いた。俺は四つん這いになりながら息を整える。鼻や耳の穴に海水が入って気持ちが悪い。
咳き込む俺の背中に、俺を蹴ったその人は容赦なく吠えてきた。
「夢見が悪すぎるだろう! やめろよ! 今日は地元でセンチメンタルジャーニーしているこの私がいるんだ! 場所変えろ! この海で自殺なんてやめろ!!」
自殺?
心当たりのない言葉に首を振った。自殺なんて考えてない。ただなんとなく海が見たくて、毎日仕事があるから自由に出かけられるのが夜しかなくて、それで。
「なんだ無自覚か」
その人はため息をつくと、咳がおさまった俺の腕を掴んで引っ張り上げた。そこでようやくその人の顔を見て驚いた。俺よりも随分若い女性だったからだ。
女性は俺が立ったことに頷くと、ぐいぐい腕を引っ張った。慣れない浜辺の砂に足を取られて転びそうになると、女性がサッと支えてくれた。
「あの、どこへ」
「とりあえずお腹空いたからあの居酒屋行こう。汚いけど美味いから」
女性が指差した先には、オレンジ色の提灯に明かりがついている小さな店だった。優しくて温かい雰囲気が、離れたこの場所まで伝わってきて目が緩む。
「あそこなら服も借りられっから」
ぐいぐいと容赦なく腕を引っ張られる。俺はされるがままに足を動かした。
『夜の海』