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7/12/2024, 1:12:24 AM

【お疲れ様です。……】

 仕事を忘れて過ごしていたはずなのに、これだよ。しかも私だけ休みの日に限って仕事のライングループが稼働する。
 パキパキとメッセージが続けて届く。中途半端なタイミングで既読や返信をするのは、話を折ってしまう気がしてタップできない。

 いや、本当は家にいてまで仕事したくないだけである。

 通知が鳴らなくなったスマホのホーム画面を見つめる。メッセージがいくつか重なっているらしい。仕事のラインだ、本当はすぐに返信しなきゃいけない。
 頭では分かっているけど、休日の私は抵抗したい。もう少し、仕事を忘れて過ごしたい。でも内容が気になるのも事実。もしかしたら私がやらかしたかもしれないから。

 私は震える指でそっとメッセージを長押しした。ホーム画面上でメッセージの全容が浮かび上がる。内容は引き継ぎ事項で、すぐに返信が必要ではなさそうだ。
 私はホッとして画面から指を離した。既読はまだついていない。もう少しだけ、動画見よう。


『1件のLINE』

7/11/2024, 4:08:31 AM

「さっむ! いっだぁ!!」

 情けない声を発しながら目が覚める。二の腕を手のひらでさすっただけなのに、私の左ふくらはぎはピンと張り詰めた。急な痛みに襲われて、私は左足を抱えてのたうち回る。足首を動かして、そっと伸ばしたり縮めたりを繰り返した。また足を攣らないように、慎重にだ。
 次第に痛みが和らいだら、足元でくしゃくしゃに丸まったタオルケットを首まで被る。私はどうやら寝ている間は暴れているらしく、寝るまでかけたものが朝には全て剥がれているのだ。そのため、夏は冷房で、冬は暖房を切ったがために体が冷えきっている。ほぼ毎朝、身震いで起きるのだ。
 冷えきった体にかけたタオルケットは温かい。たった一枚、布切れを被るだけでこれほど温かいのかと驚いてしまう。
 心地良い温もりに包まれて、ウトウトしていると急に時間が気になった。枕元に置いてあるスマホをつければ、時刻は四時すぎを表示させていた。
 アラームが鳴るまで一時間。まだまだゆっくり寝られる。
 私は安心して目を閉じ、意識を飛ばした。


 一時間後、アラームの音に驚いてまた足を攣り、のたうち回りながらタオルケットの行方を探る羽目になるのだが、もはや夏の風物詩と思いたい。


『目が覚めると』

7/10/2024, 5:47:00 AM

「当たり前」
胸を張って堂々と言えるくらいまで
努力し続けた自分を時々労ってあげてくださいね。


『私の当たり前』

7/8/2024, 10:35:52 PM

 疲れ果ててヘトヘトの状態で、
 出汁やスパイスの香りに誘われたら、
 そりゃ、その明かりに吸い込まれるでしょ。

『街の明かり』

7/8/2024, 1:05:14 AM


 焼き尽くさんばかりの日差し、茹だる暑さが窓越しに伝わってくる。思わず窓から距離をとって歩く。室内は凍えるほど冷房が効いているけど、じんわりと汗が出るくらいにはやはり暑い。顔から吹き出る汗をハンカチで拭いながら、もう片方の手でハンディファンを構えた。近年で定着した夏の装備である。
 まだ七月になって七日しか経過してないのに、最高気温は三十五度以上を毎日記録し続けている。七月でこの暑さなら八月は一体どれくらい暑くなるのだろう。残暑は九月、いや十月以降まで長引きそうだ。

「ラウンジの笹見た?」
「ああ、見た見た! 悪ふざけが過ぎるよね」

 すれ違った学生がケラケラと笑っている。私は茹で上がった脳みそで聞こえたセリフをぼんやり繰り返した。
 笹? そんなものあったか?
 幸い、次の講義は入っていないため確認しにキャンパスの一階まで降りた。都会的な高層ビルのキャンパスは、学生が出入りできる場所は一ヶ所で、その目の前がラウンジと称した学生向けの掲示板やくつろげるスペースが設けられていた。登校すれば必ず通る場所だ。そこにいつもはない奇抜な存在があれば気がつきそうなんだけど。

 はたして、一階の広々したスペースの中央、ど真ん中にそれは存在していた。本物の笹でなく、拡大コピーされたイラストの笹が。
 パーテーションに貼られた紙の笹は、もうすでにたくさんの短冊で埋め尽くされていた。色とりどりの短冊が所狭しと並んでいると、迫力が違う。本物の笹にくくりつける七夕飾りとは風流加減が。
 私も書きたかったけど、どうやら締め切ってしまったようだ。諦めて貼られている短冊に目を通した。

 健康でいられますように。
 単位落としませんように。
 夢が叶いますように。
 彼氏ができますように。
 大学でたくさんの楽しい思い出が作れますように。
 内定もらえますように。
 お金持ちになれますように。
 涼しくなりますように。

 至って普通の短冊に、大喜利と勘違いしている文言も目に入った。

 二次元へ行けますように。
 祝! ○○生誕祭!!
 推しの同担がこの世からいなくなりますように。
 同担拒否するファンがチケット外れますように。
 ライブチケット当たれぇーーー!!!

 欲望に忠実すぎないか?
 オタクばかりの女子大だと、このくらいになるのかもしれない。勢い余って書いてしまったところを想像すると面白くて思わず笑ってしまった。これがさっきすれ違った学生が言っていた悪ふざけか。
 他にないか探していると、視界に入ったシンプルな短冊に目を惹かれた。

 幸せが届きますように。

 そうそう、そうだよ。短冊はこれくらいシンプルでいいんだよ。
 私は人目も気にせず頷いていると、その短冊の違和感に気がついた。薄ら文字が透けている。まさかと思って裏を捲ると、文字が書いてあった。

 幸せが届きますように。
 速達で。

 ああ、うん。これも大喜利だったか。
 私はそっと短冊を表に戻した。短冊に記された文字を何度も頭の中で巡らせる。

 私も速達でほしい。



『七夕』

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