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7/8/2024, 1:05:14 AM


 焼き尽くさんばかりの日差し、茹だる暑さが窓越しに伝わってくる。思わず窓から距離をとって歩く。室内は凍えるほど冷房が効いているけど、じんわりと汗が出るくらいにはやはり暑い。顔から吹き出る汗をハンカチで拭いながら、もう片方の手でハンディファンを構えた。近年で定着した夏の装備である。
 まだ七月になって七日しか経過してないのに、最高気温は三十五度以上を毎日記録し続けている。七月でこの暑さなら八月は一体どれくらい暑くなるのだろう。残暑は九月、いや十月以降まで長引きそうだ。

「ラウンジの笹見た?」
「ああ、見た見た! 悪ふざけが過ぎるよね」

 すれ違った学生がケラケラと笑っている。私は茹で上がった脳みそで聞こえたセリフをぼんやり繰り返した。
 笹? そんなものあったか?
 幸い、次の講義は入っていないため確認しにキャンパスの一階まで降りた。都会的な高層ビルのキャンパスは、学生が出入りできる場所は一ヶ所で、その目の前がラウンジと称した学生向けの掲示板やくつろげるスペースが設けられていた。登校すれば必ず通る場所だ。そこにいつもはない奇抜な存在があれば気がつきそうなんだけど。

 はたして、一階の広々したスペースの中央、ど真ん中にそれは存在していた。本物の笹でなく、拡大コピーされたイラストの笹が。
 パーテーションに貼られた紙の笹は、もうすでにたくさんの短冊で埋め尽くされていた。色とりどりの短冊が所狭しと並んでいると、迫力が違う。本物の笹にくくりつける七夕飾りとは風流加減が。
 私も書きたかったけど、どうやら締め切ってしまったようだ。諦めて貼られている短冊に目を通した。

 健康でいられますように。
 単位落としませんように。
 夢が叶いますように。
 彼氏ができますように。
 大学でたくさんの楽しい思い出が作れますように。
 内定もらえますように。
 お金持ちになれますように。
 涼しくなりますように。

 至って普通の短冊に、大喜利と勘違いしている文言も目に入った。

 二次元へ行けますように。
 祝! ○○生誕祭!!
 推しの同担がこの世からいなくなりますように。
 同担拒否するファンがチケット外れますように。
 ライブチケット当たれぇーーー!!!

 欲望に忠実すぎないか?
 オタクばかりの女子大だと、このくらいになるのかもしれない。勢い余って書いてしまったところを想像すると面白くて思わず笑ってしまった。これがさっきすれ違った学生が言っていた悪ふざけか。
 他にないか探していると、視界に入ったシンプルな短冊に目を惹かれた。

 幸せが届きますように。

 そうそう、そうだよ。短冊はこれくらいシンプルでいいんだよ。
 私は人目も気にせず頷いていると、その短冊の違和感に気がついた。薄ら文字が透けている。まさかと思って裏を捲ると、文字が書いてあった。

 幸せが届きますように。
 速達で。

 ああ、うん。これも大喜利だったか。
 私はそっと短冊を表に戻した。短冊に記された文字を何度も頭の中で巡らせる。

 私も速達でほしい。



『七夕』

7/7/2024, 4:37:41 AM

「ねえ、ウチら今星の上歩いてない?」
「はぁ? ぽよ何言ってんの?」
「暑さにやられたんだよ、ぽよは」
「ちげえよ、よく見ろよ下!」
「下ぁ? あ」
「星は上じゃない? あ」
「さっきまで雨降ってたじゃん? 街灯がさ、濡れた道路に反射して、超キラキラしてない?」
「あーね」
「確かにキラキラしてる」
「星空みたいじゃない!?」
「まぁ、言いたいことは分かるけども」
「星……星かこれ」
「星だよ! もうここまできたら天の川っしょ!」
「天の川!?」
「天の川は失礼すぎてマジウケる!」
「やばくない? 海水浴先取りって感じ?」
「アハハッ! 川なのに海水浴!?」
「キャハハッ、なら水着着てこいし!」
「ていうか今年海行く?」
「行くに決まってんじゃん」
「海とプールと夏祭り、あと花火大会と温泉旅行」
「マジ金足りないんだけど」
「何言ってんの? 約二ヶ月もまとまった休みがもらえるの、今年が最後っしょ」
「就活、卒業制作。色々あるけど遊ばないと!」
「あー、マジかー。バイト増やそう」


『友だちの思い出』
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駄弁っている時が楽しいのは私だけだろうか。

7/6/2024, 3:29:30 AM

「ねぇ、星見える?」

 耳にあてたスマホから貴方の声が聞こえる。仕事の都合で遠距離恋愛になった私たちは、その距離を埋めるように毎晩電話している。
 私はベランダに出て、空を見上げた。生温い空気が私の頬を撫でた。

「今日はね、北極星がすっごい綺麗だよね」
「うん」
「周りの星も綺麗でさー、って本当に見えてる?」
「うん、見えてる」
「よかった」

 貴方はどこで身につけたのか、自慢げに星の話をした。ここ数週間は、ずっと星の話ばかりだ。貴方が天文学に興味あったなんて、私は知らなかった。
 私は知らない。貴方の口から語られる話以外で、貴方を知る術がどこにもない。どこの誰と話して、どこの誰と食事して、どこの誰とこの夜を過ごすのか。私は知ることが怖くて、聞いたことも、貴方の元へ訪れたこともない。
 グルグルとよくない感情が、私の心を巡る。私の心を写すように、夜の空は雲に覆われていた。


『星空』

7/4/2024, 11:32:15 AM

 段差がなく、凹凸もない。
 坂もなければ、死角もない。

 そんな平坦な道を歩いている時、誰にも見られてない場面で日に何度も躓いていること。


『神様だけが知っている』

7/3/2024, 3:52:38 PM

 街がある

 光がある

 大切な人が待っている

 今まで険しい道を辿ってきたから
 抜けた先には自分の望むものがあると願って

 一歩一歩が速くなって
 とうとう駆け出して
 手を伸ばした


『この道の先に』

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