「ねぇ、星見える?」
耳にあてたスマホから貴方の声が聞こえる。仕事の都合で遠距離恋愛になった私たちは、その距離を埋めるように毎晩電話している。
私はベランダに出て、空を見上げた。生温い空気が私の頬を撫でた。
「今日はね、北極星がすっごい綺麗だよね」
「うん」
「周りの星も綺麗でさー、って本当に見えてる?」
「うん、見えてる」
「よかった」
貴方はどこで身につけたのか、自慢げに星の話をした。ここ数週間は、ずっと星の話ばかりだ。貴方が天文学に興味あったなんて、私は知らなかった。
私は知らない。貴方の口から語られる話以外で、貴方を知る術がどこにもない。どこの誰と話して、どこの誰と食事して、どこの誰とこの夜を過ごすのか。私は知ることが怖くて、聞いたことも、貴方の元へ訪れたこともない。
グルグルとよくない感情が、私の心を巡る。私の心を写すように、夜の空は雲に覆われていた。
『星空』
7/6/2024, 3:29:30 AM