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5/7/2024, 3:20:09 PM


 初めて「好き」を知ったあの日から、あなたの一挙一動に目が離せなかった。あなたと向き合うと顔の赤みがとれなかった。あなたから話しかけられると舞い上がった。あなたが他の人と笑い合っていると嫉妬で身が焦げそうだった。

 こんな感情が自分の中にあったなんて。とてもじゃないけど信じられなくて、ずいぶん振り回されたものだった。



『初恋の日』

5/6/2024, 2:27:56 PM

 この幸せなひとときが終わってしまうと
 悲しむ人もいれば

 この苦しみから解放されると
 喜ぶ人もいるだろう


 最期は大切な人と過ごしたいと思う人もいれば

 いつも通り日常を送りたいと思う人もいるだろう


 世界の終わりを信じる人と

 フェイクニュースだと嘲笑う人と

 どちらでも構わない人と

 終わりを気にしている暇がない人と

 盲信した人々を騙そうとする人と

 そもそも終わりすら知らない人



 人々の思いを簡単に踏みにじり

 世界は勝手に終えていった



『明日世界が終わるなら』

5/6/2024, 7:38:48 AM

 毎日が忙しい。
 ラインのメッセージに返信して。こまめにSNSをチェックしていいねと付けて。次はどこに出かけようか考えて。好きそうなカフェを調べて。喜びそうなプレゼントを探して。
 触れてもらえるように自分磨きをして。万が一家に来たときのために整理整頓をして。美味しいご飯が振る舞えるように料理の腕を磨いて。不安にさせないために堅実に働いて。守れるように身体を鍛えて。

 君の笑顔を一秒でもそばで見られるように。
 俺は君と出逢ってから毎日が忙しい。


『君と出逢って』

5/4/2024, 10:31:35 PM


 街の騒めきに響く、小さな鈴の音。足を止めて周りを見渡しても、誰も気にしていない。

--チリン チリン チリーン

 鈴の音は次第に迫ってくる。

--チリーン チリーン チリンッ

 一際大きく鳴った。背後からだ。
 誰かいる。
 振り返った。



 暗転。


『耳を澄ますと』

5/3/2024, 2:57:16 PM

 幼い頃に共有した話。家族も他の友達も。お互い以外誰一人として知らない秘密。
「誰にも言わないって約束」
「うん、約束。死んでも言わない」
互いの小指を絡めて指切りげんまんを交わしたあの日。たくさん駆け回って熱った体に、ひんやりした風が心地よかった。

   *

 君と過ごす時間よりも、一人のことが多くて。他の友達や君の知らない人たちと過ごすことも増えてきた。君と連絡を取り合うことも年単位になってきたこの頃。夢の中で君と過ごした時間の中でも、秘密を共有したあの時を見た。
 目が覚めて、身支度を整えながら首を傾げた。
 あれほど約束だと強く指切りしておいて、肝心の内容が思い出せないのだ。自分が話した内容も、君が話してくれた内容も。
 出勤して業務に取り掛かっても、約束の内容が気になってしょうがなかった。気になりすぎて、仕事に集中できない。
 これはマズイと思って、昼休みに君へ電話をかけた。君と連絡を取るのは年末ぶりだ。
「はい」
「二人だけの秘密って覚えてる?」
「はぁ?」
 耳元で小馬鹿にしたような声が返ってきた。事情を説明してから改めて尋ねた。考えるかのような唸り声の後、君は言葉を続けた。
「そんなことやった?」
 俺よりも酷い回答だった。俺は指切りしたことだけは覚えていたので、君よりも記憶力がいいようだ。
「でもどうせくだらないことだろう。何組の誰々ちゃんが好き、とか。実は何歳までほにゃららしてた、とか」
「ほにゃらら? ちょっと詳しく」
「いや具体的に思いつかねぇから濁したんだよ」
 おねしょとか、兄弟で風呂入ってたとかそんなんじゃねぇの。
 まるでどうでも良さげな声に、少し怒りを覚えた。こちらは真剣に思い出そうとしているのに、なんだその態度は。
 昔なら感情のままぶつけていた言葉も、一旦飲み込むことができた。いちいち突っかかって喧嘩している時間がもったいないと思えるようになったからだ。言わなきゃいけないことは言うけれど、全部言う必要はない。大人になったからこそ割り切れる。
「おねしょとか兄弟で風呂とかは家族が知ってるじゃん」
「確かに」
「もっと子どもらしさもありつつ、大人に言ったらマズイ系を探っていかないと」
「わかったわかった。じゃあ次の飲みで話そう」
「議題は『あの日の指切りの意味とは』だな」
「学級会開くな。酒が飲みにくい」
 日にち連絡する、とだけ付け加えられて通話が切れた。結局欲しい答えは出なかったが、モヤモヤ考えていたことはさっぱりなくなった。午前の分を取り戻す勢いで仕事が捗った。

   *

 後日の仕事帰りに君と飲みに行って、電話で話した約束について議論した結果。
 あの時カードゲームが流行っていて誰が一番にレアカードを手に入れるかクラスで競い、参加してるかしてないか微妙なラインに立たされた俺と君が一番最初に引き当てて、クラスのリーダーポジションの奴にバレないように隠してたことか。
 または。
 公園で遊んでいたらボールを遊具に思いっきりぶつけて、なんかよくわからない部品のカケラが出てきて慌ててその遊具を普通に遊べると確認して、誰にも何も告げずに帰ったら、その年中にその遊具が撤去されてしまったことか。
 この二択まで絞れたがどちらだったかわからない。互いに頭を抱えながらレモンサワーを煽った。
「そもそも思い出さない方がいい。その方が死ぬまで言わなくて済む」
「確かに」
 最後は君に丸め込まれて、約束は分からずじまいのまま学級会はお開きとなった。



『二人だけの秘密』

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