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4/23/2024, 2:48:23 AM


 いつから選択肢があって
 その中に必ず正解があると言った

 少なくとも俺は
 その時正解だと思ったものを選んで間違えてきた

 全部だ
 全部間違えてきた

 誰も最初から間違ってると思っても選ぶ
 そんな賢い奴だらけの世の中じゃないんだよ!


『たとえ間違いだったとしても』

4/22/2024, 3:50:25 AM


 まだ草木が土の中で眠っている季節の話。
 数年ぶりに京都へ旅行しに行った。一泊二日のおひとり様観光旅は、雨に降られながらスタートした。
 翌朝、空気の冷たさに身震いしつつホテルの窓から外を覗いた。雲が厚くて暗い曇り空だ。予報ではお昼頃から晴れるらしい。私は手短に身支度をして、チェックアウトを済ませた。

 早朝の目的地は嵐山だった。観光地として人気のスポットは季節関係なく人で混み合う。ゆっくり歩いて回るには朝から行動するしかない。その予想は的中して、午前中にもかかわらず観光客はまばらだった。その分、路面のお店は何一つ営業していないが、歩き回った後はちょうど開店しているに違いない。私はゆっくりと、それでいて写真を撮る人の間を縫って竹林を目指した。

 景色を撮りながら往復して、大きな門の前で立ち止まった。グーグルマップを開けば天龍寺の北門らしいことがわかった。よく見れば北門からも中へ入場することができるようだ。私は早速門を潜った。
 北門は天龍寺の庭園の裏側に位置する。手入れの行き届いた砂利道をゆっくり歩く。左右を見渡しても無駄のない、さっぱりとした庭である。桜が咲き誇る春も、深緑に覆われる夏も、至る所で見受けられる紅葉の秋も。人混みを避けた結果、庭園の花々はほとんど咲いていなかった。
 見応えがあるかと言われると、あまりなかった。植物の名前が書かれた札の隣は、本当なら何か咲いていたのだろう。今は何もない。どんな色の花びらをつけて、どんな香りを漂わせる花なのか。想像しては虚しく思えてしまう。
 意気消沈の中、唯一の希望と言わんばかりに花が咲いたところを見つけた。近寄って見れば黄色味を帯びた白い花びらが開きかけていた。見たことない花だ。隣の札を見れば蝋梅と書かれてあった。確かに柵に隔たれていて多少距離があるのに、ここまで梅の香りが漂ってくる。
 その梅をまじまじと見ていると、あることに気がついた。昨日降った雨の水滴をまとっていたのだ。
 今にも滴り落ちそうな雫は、少し明るくなった空からの光を受けて、キラキラと光っている。辺り一面を凝縮したかのように、雫にも小さな景色が映っていた。


--これが和歌の世界に登場する「白露」か!


 普段の生活で植物に目を向けることがない私は、とても感動した。冬の京都は殺風景なだけじゃない。こんなにキラキラした白露を見ることができるのだ。
 むしろたくさんの花々で庭園が彩られていたら、一つひとつに注目しなかった。だから白露の存在に気づくこともなかっただろう。
 できるだけ腕を伸ばして、写真を撮る。咲きかけている梅の花と、景色を凝縮した白露が綺麗に収まった。諦めずに隅々まで見てよかった。
 写真を眺めて満足した私は、先へと進むのだった。



『雫』

4/20/2024, 2:03:42 PM



 先に手放したのはあなたでしょう?



『何もいらない』

4/19/2024, 11:00:38 PM


 つい最近娘が結婚式を挙げた。入籍は昨年のうちに済ませていたけれど、式場の都合で挙式だけ年明けになったのだ。
 純白のウエディングドレス姿は、今まで見てきた中で一番美しく、とても輝いていた。ついこの間までよちよち歩いていた気がするのに。
 イヤイヤ期とか反抗期とか。こちらが精神的に参ってしまう出来事も多かった。でも入学式や卒業式、成人式などの節目を迎えるたび、嫌なことは全部吹き飛んでいった。毎回子どもの成長が嬉しくて泣いてしまうからだ。


「絶対振袖はピンク!俺の娘はピンクが似合うから。それで結婚式は絶対ドレス! このプリンセスラインってやつ! お色直しはもちろんピンクにしよう」


 娘と一緒に昔から口酸っぱく言われてきた言葉。振袖を決める時も、ドレスを決める時も立ち合わせてもらえたのだが。色々着てみても結局あなたの言っていたとおりだった。
 ハイハイした時、掴まり立ちした時、歩き出した時、初めて喋った時。幼い娘を二人で四苦八苦しながら育てていたはずなのに。あんなに幼い娘を通して、あの時のあなたは一体何を見ていたのだろう。

 隣の席へ目を向けても、そこには誰もいない。
 テーブルの上に置かれた写真立ての中で、あなたはただ微笑んでいるだけだった。

 見せてあげたかった。
 あの子の人生最大の幸せな姿を。



 
『もしも未来を見れるなら』

4/18/2024, 11:03:05 AM


 色彩豊かな世界で育ってきたので
 無彩色とか無色透明とかの世界で
 これから生きていけと言われても
 人の温かみが感じられない世界で
 恐怖と不安に苛まれて息が苦しい


『無色の世界』

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