コンビニで春ちゃんにアイスを買ってあげて外に出ると
リードから抜け出したシロがしっぽを
ふりふりして待ち構えていた。
「なっ!どうやって!まってシロ!」
おちょくられているかのように遠くでしっぽを
ふりふりしてこっちに走ってくる。
捕まえようとした瞬間、袖が引っ張られた。
「は、春ちゃん?どした?」
シロと春ちゃんを交互に見て
シロがこっちに向かっていたのでキッと睨んだ後
春ちゃんを優先して私はしゃがんだ。
「あのねまま...ごめんね...あのね、シロになったらね
ままかわいいかわいいしてくれるとおもったの
シロ...叱られないの...ずるいし」
「春ちゃん...」
娘の春ちゃんは度が過ぎる犬の真似っ子をしていた。
それで昨晩喧嘩になったのだ。
なんでそこまで犬になりたいのか理由がわからなくて
困っていたがどうやら、ただの甘えん坊な子供がしがちな理由で
シロになれば褒めてくれる。
シロになれば仕方ないと思って見逃してくれる。
そんな想いがあったんだと思う。
「春ちゃんは今のままで可愛いよ!
ままねシロよりも春ちゃんが好きだよ?」
私は理由が聞けて嬉しくなってそう言った。
「まま春ちゃんのことすきー?」
「うん、すきー!」
「へへ、春ちゃんね!シロ捕まえてくる!」
「えっ!?ちょ春!」
追いかけられたシロは急いで逃げる。
またそれを追いかける春ちゃん。
でもここは駐車場で、車通りも多い。
「春ちゃん!!とまって!!」
特に今は動いている車は見当たらないし
道路にも信号待ちしている車さえいない。
少しほっとしたところで、シロは道路を渡って公園に向かった。
春ちゃんはそれを追いかけて道路に入ろうとしている。
私の足であそこまでとどかない。
でも、だ、大丈夫。車は来てない。
そこに止まってるのは車だけどハザードランプがついてる。
だから大丈夫。
お、落ち着けそのまま渡りきれば
____ドンッ
「ぁ...ぇ...」
ハザードランプを消した車は前にいた小さな女の子に
気づくこともなく発車した。
この短い距離でも数十メートルふっとばされた春ちゃんは
頭から血を流して即死だった。
お葬式で春ちゃんを焼いている。
きっと暑くて泣き出すんだろうな。
ままっ!だして!!!って
「...っ」
"もし"なんて言葉が頭によぎる。
シロがいなければ。犬の真似をしなければ。
私が怒らず、春ちゃん自身が可愛いって伝えてれば。
シロのリードが固ければ。公園に行かなければ。
私の足が速ければ。
もっともっと私がちゃんとしていれば。
「あんまり追い込むなよ...」
「...無理だよ...私がしっかりしてれば春ちゃんは!
今も生きてたの!!!」
「...っ
そんなのわかってる。だけどどうしようもないだろ!」
夫の言葉の裏には
お前のせいだと言いたくない。
俺だって責任はある。そういうような含みがあるって
長年一緒にいたからわかった。
でもそんなの今の私には慰めにならなかった。
私たち以外の出席者はどこかでご飯でも食べてるんだろうな...。
そんなこと思いながら家に帰宅する。
「わん!」
「...春ちゃん?」
「へへっわん!」
「は、春ちゃん!!」
近くから聞こえてくる犬の真似っ子。
春ちゃんだ。春ちゃんが帰ってきた。
暑かったよね痛かったよね。ままごめんね。
役たたずでごめんねっ。
「おい、何言ってるんだよ
春なんてどこにも...まさか...目を覚ませって
辛いのはわかる!でもあれはシロだ!」
夫の声が聞こえる。でもすごく遠い。
遠くて遠くて徐々に薄れていく。
もう春ちゃんの声しか聞こえない。
もう大丈夫。まま、春ちゃんが犬の真似っ子しても
怒らないから。だからずっとここにいよ。
ままが1番の理解者になるから。
わかる人にはわかるあるある
「俺今幸せだよとってもね。この気持ちわかる?」
「わかんない」
嘘。めっちゃわかる〜。
めっちゃうちに好意抱いてるやん!
友達が言ってたのあってるやん!
え、どーするよ。
仮に告られたら!
こいつのステータスは
17歳身長172cm体重約70kgのガタイよし兼野球部
周りからの信頼〇
友達の多さ〇
一途さ判定不可能!
ただし付き合ったら彼女優先になるタイプ!
料理✕
掃除洗濯〇
顔△
性格〇ESFJうお座のA型
積極性恋愛的△積極性行事的〇
親△宗教系
センス✕
清潔〇
周りからはきっといいね!とか言われて
別れろとか悪口とか言われないけど...
なんか...ちがうんだよなぁ
もっと背は高い方がいいし料理できてほしいし。
センスないのうちと同じだから嫌だし...
優しいよ!すっごくね!てか普通に理想な人だとも思うよ!?
でも違うんだよなぁ...
告白されたら断りたい...
でも私絶対むり!これはOKするしかないのかぁ
好きだけど付き合いたくない...
この気持ちになったことある人いるかなぁ...
「ごめん困らせた?」
「あぁ!大丈夫大丈夫!」
断る理由がないぃぃーー
ま、まずは小さい幸せを見つけていくかぁ。
こうして私は彼のいい所を探すことにした。
そうしているうちに気づいてしまった。
あれ、これうちが追いかけてね?
脳内のタンスに彼のデータめっちゃあるぞ??
これは...完敗だ...
実は沼男って更新しないと...
これ、すべて幸せに変わる日が近い暗示なのかも
私はそう妄想して
今日も彼の隣を歩いた。
散らかった部屋を片付けていると
クイッと袖を引っ張られる。
「春ちゃん...」
娘の春ちゃんは小学生だと言うのに
普通に喋ることができない。
ヨダレは垂らすし宇宙語話すし部屋は散らかすし
まったく...世話の焼ける娘だ。
夫はこんな娘を見て家を出ていってしまったけれど
私は好きだ。どれだけ世話の焼ける子供でも
自分が腹を痛めて産んだ子だから。
「春ちゃん今日はどこに行きたい?」
春ちゃんはテクテク歩いてテレビに移る
満開の桜に指をさした。
目はキラキラしてるしふんすっと鼻息を荒くしてる。
そんなに行きたいんか。
こーゆー時の春ちゃんには謎のしっぽが見えてくる。
「わかった。お花見しに行こっか!」
しっぽはもっと大きく揺れて
散らかったおもちゃの隙間を通りながら走る。
犬に例えたらどんな犬種だろう?
ふふっと1人笑えば
春ちゃんは不思議そうにこっちを見つめてくる。
それすらもおかしくてまた1人笑った。
「ふわんっ!」
「どう?春ちゃん。綺麗でしょ?」
桜の花びらは太陽が放つ光が水面に反射して
ゆらゆらと綺麗に光っている。
春ちゃんはパクッと花弁を口に含んだと思ったら
苦い顔をした後ペッと吐き出した
なにやってんだか。
子供を授かって8年が過ぎるけど
こーゆーすぐ口に含む行動はアホらしく感じる。
まぁ、かわいいけどさ。
「春ちゃんご飯にしよっか!」
春ちゃんはリンゴも好きだしキャベツも好きだ。
パクッと大きな1口でリンゴを頬張る。
もぐもぐしている姿をカメラにおさめると
春ちゃんはご飯にかぶりついた。
行儀が悪い。誰かに見られていないか心配になった。
辺りをチラチラして人通りを探すけど
近くに人はおらず安心した。
こんな行儀が悪いところを見られたら
どこぞのおばさん達がコソコソと噂するに違いない。
春ちゃんはまだ子供でそんなことは知らないから
白いご飯と一緒にバナナを口に入れ始めた。
「ほんと不思議な子」
でも私は怒らない。
無理に怒ってもご飯を食べなくなるだけだ。
それか癇癪を起こして騒ぐだけ。
もう少し、もう少し大人になったら怒ろう。
それは別々に...とか。箸を使おうね...とか。
うん...そうしよう。
家に入ると同時に今日の疲労も帰ってきた
春ちゃんは相変わらず元気で羨ましい。
今も家中駆け回ってる。
ドサッとソファーに横たわり
今日撮った写真を見返した。
「あれ?春ちゃん...映ってない」
急いで他の写真も確認する。だけれど全て
春ちゃんは映っていない。
「は、春ちゃん...?」
真っ暗闇の部屋の中
春ちゃんの吐息が聞こえる。
「あぁ、よかった...春ちゃんいるのね」
そうよ。いないはずない。
多分、レンズがズレたんだ。
また行こう、桜が満開のうちに。
お弁当を持って2人で行こう。
春ちゃんが生きているうちに。2人で。
「わん!!!」