散らかった部屋を片付けていると
クイッと袖を引っ張られる。
「春ちゃん...」
娘の春ちゃんは小学生だと言うのに
普通に喋ることができない。
ヨダレは垂らすし宇宙語話すし部屋は散らかすし
まったく...世話の焼ける娘だ。
夫はこんな娘を見て家を出ていってしまったけれど
私は好きだ。どれだけ世話の焼ける子供でも
自分が腹を痛めて産んだ子だから。
「春ちゃん今日はどこに行きたい?」
春ちゃんはテクテク歩いてテレビに移る
満開の桜に指をさした。
目はキラキラしてるしふんすっと鼻息を荒くしてる。
そんなに行きたいんか。
こーゆー時の春ちゃんには謎のしっぽが見えてくる。
「わかった。お花見しに行こっか!」
しっぽはもっと大きく揺れて
散らかったおもちゃの隙間を通りながら走る。
犬に例えたらどんな犬種だろう?
ふふっと1人笑えば
春ちゃんは不思議そうにこっちを見つめてくる。
それすらもおかしくてまた1人笑った。
「ふわんっ!」
「どう?春ちゃん。綺麗でしょ?」
桜の花びらは太陽が放つ光が水面に反射して
ゆらゆらと綺麗に光っている。
春ちゃんはパクッと花弁を口に含んだと思ったら
苦い顔をした後ペッと吐き出した
なにやってんだか。
子供を授かって8年が過ぎるけど
こーゆーすぐ口に含む行動はアホらしく感じる。
まぁ、かわいいけどさ。
「春ちゃんご飯にしよっか!」
春ちゃんはリンゴも好きだしキャベツも好きだ。
パクッと大きな1口でリンゴを頬張る。
もぐもぐしている姿をカメラにおさめると
春ちゃんはご飯にかぶりついた。
行儀が悪い。誰かに見られていないか心配になった。
辺りをチラチラして人通りを探すけど
近くに人はおらず安心した。
こんな行儀が悪いところを見られたら
どこぞのおばさん達がコソコソと噂するに違いない。
春ちゃんはまだ子供でそんなことは知らないから
白いご飯と一緒にバナナを口に入れ始めた。
「ほんと不思議な子」
でも私は怒らない。
無理に怒ってもご飯を食べなくなるだけだ。
それか癇癪を起こして騒ぐだけ。
もう少し、もう少し大人になったら怒ろう。
それは別々に...とか。箸を使おうね...とか。
うん...そうしよう。
家に入ると同時に今日の疲労も帰ってきた
春ちゃんは相変わらず元気で羨ましい。
今も家中駆け回ってる。
ドサッとソファーに横たわり
今日撮った写真を見返した。
「あれ?春ちゃん...映ってない」
急いで他の写真も確認する。だけれど全て
春ちゃんは映っていない。
「は、春ちゃん...?」
真っ暗闇の部屋の中
春ちゃんの吐息が聞こえる。
「あぁ、よかった...春ちゃんいるのね」
そうよ。いないはずない。
多分、レンズがズレたんだ。
また行こう、桜が満開のうちに。
お弁当を持って2人で行こう。
春ちゃんが生きているうちに。2人で。
「わん!!!」
3/28/2025, 8:22:03 AM