テーマ『二人ぼっち』
夕暮れの雨
一人傘さし 少年が行く
列なる蟻追い いつの間にやら離れ離れ
古びたバス停
雨漏りの屋根 うつむく眼(まなこ)
黄色い長靴、昨日母と買いに行った思い出
西の空
雲が散ぢれて茜差す
見上げる少年 足元には長い影
止んだ雨音 黒い自分と二人ぼっち
坊や 坊や 嬉し懐かし母の声
駆け出す少年 影なる自分も引き連れて
抱きつく温もり 重なる二つの影
みんな揃って うちへ帰ろ
テーマ『夢が醒める前に』
回れ右をして、左を向いたら叩かれる
自由に動いていい。ただし、この仕切りの範疇で
拭いきれない閉塞感で、生きることが嫌になってくる
他者の一歩が、自分の一歩と同じとは限らない
自分の一歩が、隣のやつの一歩と同じなわけがない
大人になってようやく分かり始めた
最初から、仕切りなんてなかったんだって
地面に描かれただけの白線を、馬鹿みたいに忠実に守ってたのは
他でもない自分だった
白線を踏んでみた。右足、左足も外に出した
地面には、他にもたくさんの白線が俺を取り囲んでる
けれど前を向けば、どこまでも続く広い世界があった
俺は一つの夢を描いた
白い線が縄になって、また俺を捕まえようとする
どこかから聞こえる『どうせ無理だ』の声
子供の頃から染み付いた「大人の言うことを聞きなさい」の魔法
ガクガク震える足を抑えつけ、俺は心惹かれる方へ駆け出した
周囲が言うみたいな、挫折する現実が待っていてもいい
失敗したときは、どうか心ゆくまで笑ってくれ
だけど今は、もう少しだけ足掻きたいんだ
例え夢物語に終わったとしても
次の現実を受け止めて、また新しい夢を描いてやる
今はもう、白線は見えない
テーマ『胸が高鳴る』
子供の頃、親にダメだと言われたことをやってみた
スーパーで好きなだけお菓子を買ったり
同じ服で数日間生活してみたり
一人で好きに歩いて、行った先のカラオケで思い切り歌った
やりたいと思ったことを素直にやってみたら
なんとなく「生きてるな」って感じがした
子供の頃のまま消化不良だった気持ちが、少しだけ解けた気がする
胸が高鳴るっていうほどじゃないけど、じんわりと温かくて
子どもの頃の私が、楽しそうに笑ってるのがみえた
テーマ『不条理』
不条理:道理の通らないこと
私にとっての最大の不条理
幼稚園年長の頃『こ○も○ャレンジ』の小学校特集見て
「学校行きたくない!」って死ぬほど泣いたのに
来年「学校に通う」以外の選択肢が用意されてなかったこと
今でも「小学校楽しい!」って笑顔で言える人は宇宙人に見える
テーマ『泣かないよ』
中学校からの帰り道。アカリが公園のそばを通りかかると、弟のコウタが一人、ベンチでうつ向いているのが見えた。
秋の夕暮れが空を茜色に染める。アカリの着ている白いセーラー服が、夕日の赤と混じってピンク色に変わっている。
「コウタ、どうしたの」
声をかけると、彼は浮かない表情で私の方を見た。
頬と膝を擦りむいて、Tシャツの首元がよれている。喧嘩をしたんじゃないかと少し心配になったが、コウタからの返答は
「なんでもない」の一言だった。
ベンチから立ち上がり、家の方へ歩きはじめる彼を、アカリは後ろから追いかけていく。
「膝の傷、痛くない?」
「別に」
そっけない態度を取るコウタに、アカリは何か、言いたくないことがあるのかもしれないと思った。
「傷口からバイ菌が入るから、家に帰ったら消毒しないとね」
ひとまず、怪我の心配をしていることだけ伝えると、コウタは急に立ち止まった。
「……喧嘩した」
ぼそりと、小さい声が聞こえた。
その後は何も言わなかったので、アカリはただ黙ってコウタの小さな肩を見た。小刻みに震えて、何かをこらえている様子だ。
「辛い時は、泣いたっていいんだよ」
もちろん、弟を気遣っての言葉だった。しかし彼はムスッとした顔で「泣かないよ」と首を振る。
何で、と尋ねると、コウタはうつむき加減でぼそぼそと話しはじめた。
「泣いちゃったらさ、相手の顔が見えないじゃん。そいつがなんでバカとか言ったのか、ちゃんと見てたいんだ」
そうか。弟は誰かにバカって言われたのか。本音では悲しいし、悔しかっただろうに。それでもコウタは、相手のことを知ろうとするんだね。
小学校高学年にあがったばかりだというのに、姉の目には、弟の背中がやけに大きく見えた。
「そっか。コウタは強いね」
照れたのか指先でぽりぽりと頭を掻いて、彼は小走りに先へ行ってしまう。
顔が見えないくらい離れた向こう側で、彼が服の袖でこっそり目元を拭うのが見えた。
泣いて彼の耳が赤く染まっているのを、私は夕焼けに染まる秋空のせいにした。