ここは雨の星です。
一年じゅういつでも雨が降っています。
たまに雨が止むと誰もが困ってしまいます。
「あら嫌だ、肌が乾いちゃう」
「乾く前に洗濯物取り込まないと」
俄かな日差しに照らされ、道行く生き物は大慌て。
露店で買った濡れ合羽を頭からかぶり、服の中から足元までびしゃびしゃと水をしたたらせながら家路を急ぐ姿は、街のあちこちで見られる光景です。
地球から来てすぐは、慣れませんでした。
皆と違って全身皮膚呼吸はできないし、まとわりつく湿気はただ体を重く感じさせるだけで。
けれど素敵なことだってありました。
空に3つかかる太陽の軌道と、星の大気組成の絶妙なバランスによって、見渡す限りのあちこちにいつでも虹が浮かんでいるのです。
今じゃすっかり、この美しい輝きと共に暮らせるのだから降り止まない雨も良いものだと思っています。
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いつまでも降り止まない、雨
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所感:
雨、好きです。
10年前の私へ
未来からの手紙だなんて驚きましたか?
(そもそも差出人不明の手紙なんか読まないけど)
学校のこと、友達のこと、家族のこと、将来のこと、
どれも一人では解決できなくて不安ばかりですね。
(…と書いておけばどれかは心当たりがあるよね)
でも安心して。10年後まで続く悩み事はないから。
(それどころじゃない新たな問題が山積みだよ)
なんて、信じられないかもしれないけれど。
(今の毎日の崖っぷち加減のほうが信じられない)
ともあれ、心を強くもってただ生き抜いて。
(……としか言いようがない)
10年後の私より
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あの頃の不安だった私へ
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所感:
あのさ、輝かしい未来ってどこで売ってんの?
好きで好きでしかたなくて
だいじにしまっておいたら
見る影もなく腐れ果ててた
大切なものほど駄目になる
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逃れられない呪縛
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所感:
これはもう、そういうものなのだと。
最新の科学によれば時間の不可逆性は随分揺らぎだしているようだけど、平凡で平穏な日常を生きる僕にとって
時の流れは常時一方通行でしかない。
朝、昼、夜。
昨日、今日、明日。
生まれる、生きる、死ぬ。
※但し起きている間に限る
そう!この米印は実にいい仕事をしてくれる。
目を閉じて眠ってしまえば「限らない」。
夢の中、まるで魂の象徴みたいにカチコチと冷たい音で秒を刻む大時計の針を引っこ抜き、槍投げよろしく振りかぶって未来の背中を狙い撃つ。
想像力で動く世界は好いね。一発必中さ。
晴れて僕は明日とさよならして、麗しくも愉快な昨日と再会の杯を酌み交わす。何度だって、いつまでだって。
君が生きていた昨日に、君が生きている昨日に、どうして別れが告げられるものか。僕は僕の残りの人生のきっかり半分、こうして君に会いに来るよ。
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昨日へのさよなら、明日との出会い
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所感:
そう簡単にさよならできるはずもなく。
それに明日は明日で、出会った瞬間「今日」になってしまうから、永遠に触れ合えなくて切ない。
透明な水だとしても。
水面に誰かが触れれば(あるいは春風の精の優雅な瞬きひとつにさえ)世界は一瞬で砕け、波紋は揺らぎ続ける。
沸騰したときぐらぐらと沸き立つ湯気は、空にほどけるまでの束の間、真っ白にみえる。
それに凍らせる前に丁寧に手間をかけてやらなければ、氷の内側は無数の泡を抱え込み霞んでしまう。
ならばどうすれば透明なままでいられる?
誰にも触れず触れさせず、あらゆる干渉を断ち、純粋無欠の精神を保ち続ける術はあるか?
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透明な水
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所感:
ないだろうなあ。
限りなく透明に近い何か…は、やはり透明ではなく。