その「あなた」って誰のこと?私?
周りが何を考えているか分かんないけど、他人が求めてくる理想通りに生きる義務も義理もないよね。
勝手に期待して、好きに批判して、一方的にがっかりして、知らないうちに消えてくれれば良いんだけど。
せめて石とか毒矢を投げないでくれれば。
それで?
私にとっての理想のあなた?
ん…うん。
いいよ。そのままで、いい。
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理想のあなた
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所感:
余分な期待をしないのと未来を諦めるのは
同じじゃない、どころか全く違う。
気付かなければ良い。
正月に電話したっきりの母親も、
卒業以来会ってない教授も、
結婚式場で並んで写真を撮った同級生も、
先週ミーティングしたプロジェクトメンバーも、
退職届を破り捨てたあのクソ元上司も、
小学生の頃一番よく遊んだ友達も、
先週スーパーで会釈してくれた店員さんも、
今朝、いってらっしゃいと微笑んだ君も。
誰も、僕に気付かないまま居てほしい。
僕はといえば、バイクから投げ出され身体が空を舞ったこのほんの一瞬の間に、人生の走馬灯を見たよ。今まで出会った全ての人々の姿を、その笑顔を眺め、スクリーン越しに皆へ順繰りにさよならと声をかけたよ。
これでもう十分だ。
急だったけど自分の心だけは何とか片付けられた。
だから今は僕自身のことじゃなくて、残していく君のほうが心配だ。これが心残りというものなんだね。
僕の不在に気づくのが少しでも遅く、報せは最大限の穏やかさと共に、衝撃はできるだけ軽くなりますように。
突然の嵐が君の魂を吹き飛ばしませんように。
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突然の別れ
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所感:
別れを告げる側にとっても、突然の瞬間。
恋。恋物語。
二人あるいは複数人の間で恋が生まれ育つ
様子を描いた物語もあれば、今ここにある
恋がしおれたり砕けたり……まあなんだ、
とにかく恋の終わりを描いた物語もある。
というか世の中の物語の半分は恋の話だ。
そして残りの半分は愛の話で間違いない。
目に見えず、音も匂いも質量もないくせに
(その点では、幽霊やヒッグス粒子よりも
恋は存在が不確かだと僕は思う)、どうして
こんなに「確かなもの」扱いされてるのか
不思議なんだ。
これは僕にとっての、永遠の謎だ。
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恋物語
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所感:
わりと真面目な謎です。
一応この街も都会に区分されるので、真夜中といっても人通りがなくなることはなかなかないし、車だってひっきりなしに走ってくる。
しかし夜歩きソムリエの私にかかれば、どんな土地でも夜のしじまをしみじみと満喫できるとっておきの時間は必ず見つけられる。
この街が一番静かな夜を迎えるのは、毎週月曜日の午前3時から4時までの1時間。
その中でも自信をもってお薦めできる、世界が最も美しく静寂に満ちる時間は一年に一度だけ、2月の2週目の月曜日だよ。
お疑いかね?
ダウンコートと毛糸の帽子、あたたかなブーツを用意して、来年ぜひここへ遊びにおいでなさい。
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真夜中
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所感:
終電を逃した人々の乗り込んだタクシーが立ち去った後、月曜の朝が始まる手前のひととき。
人を殺められるほどの狂おしい愛を抱いていても、
今、その愛を以て100mを5秒で走れるか?って話。
世界に愛があろうがなかろうが地球は回り、
朝はやがて夜になり日は過ぎていく。
そんなもんだよ。愛は決して万能じゃないさ。
むしろ君に訊ねたい。
愛がなければ君は何もできないのかい。
いや、そんなはずないだろう。
愛の無力を理解し、愛に頼むことなく、それでいてなお互いのためにより善い道を見つけようとする君の努力と懸命さを、僕は少し愛おしく感じている。
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愛があれば何でもできる?
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所感:
何でもできるけど、何でも叶うわけじゃない。