「という訳で、今回の題材は“特別な存在”でーす!」
部長の楽しそうな声が聞こえるが、こっちは全然楽しくない。
「悠、作品出来た?」
声をかけてきたのは、同じ文芸部に所属している瞳。
「まっっったくできてねぇ」
「題材決まったときから機嫌悪そうだったもんねぇ」
「だってなんだよ、”特別な存在”って。公開告白でもしろってか」
「…ふむふむ、ということはいま気になる人がいるってことかー」
「な!ちち、ち、ちっげーよ!いるわけねーだろ!?まだ、20歳でもねーのに!」
「相変わらず、見た目に反してピュアだね」
「うっせ」
着くずした制服とピアスの付いた耳を見ながら言う瞳。
「閑話休題ってことで、題材のことだけど、何も恋愛対象だけじゃないと思うよ。例えば、家族とか、親友とかさ」
「あー、家族ならやっぱ母ちゃんか、親友ならお前だな」
「悠のお母さんは、女手一つで育ててくれたもんねぇ」
何故か親友がノーコメントだったが、特に気にしなかった無かった。
「そういやお前はどんな風に書くのか決めたのか?」
「もっちろん」
「なんだよ」
「それは秘密だよっ」
「ンだよ教えろよー」
つつきながら聞くが教える気はないらしい。出来たら1番に見してあげるから。そう約束して、俺たちはそれぞれ作品の制作へと取りかかった。
「一目見たときから、君が好きだ!付き合って下さい!」
そんな告白、私は一生受けないんだろうな。
昼休み、お弁当をたべながら中庭を見下ろしていた。そこではこの学校のマドンナ、沙原 陽色がまたまた告白されていた。一週間に一度はこんな光景を見ている。だからこそ分かる。この後、彼女がどんな行動をとるのか。
「ごめんなさい!」
やっぱり。
彼女は今までの告白(高校のみ)、計48回全て断っている。勿体無い。試しに付き合うでもすればいいのに。
「ののちゃん、隣いいかな?」
そんなことを考えていると、例の彼女が私の傍にやってきた。どうぞ、と素っ気なく言うと、ありがとう!と朗らかに笑って言った。彼女は何故か、私によく話しかける。
彼女は顔が良い、そのくせ性格も良い。そんな人を好きにならない人などいない。だから、友達なんていくらでもいるのだ。私と違って。
「ののちゃん?どうかしたの?」
こてん、と可愛いらしく首を傾げる
「…その、さ。何で陽色さんは私なんかに話しかけてくれるのかなー、って…」
二人きりなのをいいことに、聞いてみた。深い意味は何もなかったのだ。
「なんかじゃないよ!」
勢いよく立ち上がる彼女に、思わず目を見開いた。
「ののちゃんすっごく頭いいし!なのにそれを鼻にかけたりしないし。それに、困ってる子がいたら誰でも声かけてくれるじゃん!自分が損するかもしれないのに。すごいよ!十分すぎるくらいにさ!」
怒涛の勢いで話す彼女に、唖然とする私。
「そんなののちゃんが私は好きなの!」
最後にそう締め括った。
「…何だか、告白みたいだね」
マズイ、と思った。考えていたことがそのまま口に出てしまった。真剣に話してくれたのに。謝ろうと口を開けかけたときだった。
「ひっ、一目見たときから貴方が大っ好きです!わ、私とお付き合いください!」
真っ赤な顔をして言った。言葉の意味を理解したとき、自分の顔が熱くなるのが分かった。息が上手くすえなくなくて、心臓がうるさくて。
胸が高鳴る。
この世は不条理だ。故に、人生に意味はない。
ーーそう、人生そのものには、何の意味もない。
ただ、何をしたかが重要なのだ!
どうしようもなく、不条理で、不合理な、この世界を、どれだけ楽しめたかが重要なのだ!
さあ、老若男女、みな、希望を持って生きようじゃないか!
「って言われる夢見たんだけどどう思う?」
「疲れてんじゃね」
〈了〉
泣かないよ
君が悲しむから
下は向かないよ
君が見えなくなるからね
前を向くよ
いつかまた君会ったとき たくさんの思い出を語るために