こんな夢を見た
いつものように朝起きるとリビングから知らない子どものような声が聞こえた。不思議に思いながら扉を開けると金髪の小さな男の子がいた。そいつは初めから一緒に生活していたかのように「おはよう」と聞いたことのあるような声で言う。戸惑いながら「おはよう」と返す。そいつはにこりと笑って俺に向かって飛んできた。そしてずっと話しかけるのだ。何を言っているかはさっぱりわからないがおしゃべりなやつだということはわかった。そのままずっと聞いていると突然静かになりすんとした顔をする。不思議に思っているとそいつはどこかへ行ってしまったのだ。
目が覚めてからもあの男の子は一体誰だったのか考える。身支度を整えてリビングに行くと「おはよう」と声がする。そこにいるのは俺が飼っているインコだった。「おはよう」と近づいて気づいた。
夢に出てきた男の子がこいつである事に。
ねぇ、もしタイムマシーンがあったらきみはどうする?
うーん、特に何もしないかな
どうしてだい?
だって君といられる今が一番幸せだから
それは、何ともまぁ嬉しいことを言ってくれるねえ
でも未来には少し興味があるかな
それまたどうして?
君と僕がどうなっているか気になるからさ
…それは一人で未来に行かなくても私とずっと一緒にいればわかるんじゃないかな
ふふ、それはプロポーズかな
違うぞ、プロポーズはきちんと手順を踏んでからするから。
待っててくれるかい?
もちろんだよ。何年でも何十年でも。ずっと待っているよ。
小さい頃、夜にやっていた音楽番組に出ていたバンドのボーカルに一目惚れした。少し低くて落ち着く声。でもまっすぐな歌は確かに私を貫いた。その日から私はひたすらに歌を歌い続けた。高校生になってバンドを組んで、あの人を超えるような歌を探し続けた。しかし、この世界は甘く無い。いくら歌っても誰も見向きはしない。現実が深く心につき刺さる。どうせ、このまたなら続けても意味ないや、と思ってしまった。そんな時、私に声をかけてくれた人がいた。少しの高揚と浮き足たった様子で、えと、あの、と繰り返す。その人は深呼吸をしてからキラキラした目で、私あなたの歌に一目惚れしました!と言った。その目はあの日の私と同じだった。憧れをいっぱいに詰めた眩しい瞳。お礼を言おうとすると涙が溢れる。嬉しかった、今までで一番だ。泣き始めた私を見て慌てるその人に、涙を拭いながらありがとうと何度も繰り返して言った。
数年後、私はあの頃よりもずっと広いステージで歌っていた。しかし私の目指す場所からはまだまだ遠い。それでもあの日を胸に歌い続ける。
いつか夜空で一番明るいシリウスよりも眩しい星になる日まで。どうか私を見ていてね。
真冬の夜、仕事が終わり外に出る。運が悪いことに今日は雪に近い雨が降っている。手袋をしようにも濡れてしまうためつけなかった。夜の空気は冷たく静かに体を刺していく。少し歩いた頃には指先は冷たく真っ赤になってしまった。このままでは全身が凍ってしまいそうだと思い、急いで帰ろうと歩くスピードを上げた。
家についても部屋の中は寒い。何をするよりも先にお風呂のお湯を沸かしにいく。沸くまでの間に片付けを済ませて風呂場へ向かう。聞き慣れた音楽に心が躍る。湯船に浸かると冷たい体が溶けていくような感覚が眠気を誘う。冬の癒しに身を沈めながら、微睡む時間を堪能するのだった。
雪解け
雪を踏みしめながらひたすらに歩く。白い髪の小さな体はふらつきながら白い息を吐いている。もう一週間もこの雪原を進み続けている。足がほつれて転んでしまう。寂しさと冷たさで涙が溢れる。それでも進まなければならない。どうしても会いたい人がいるのだ。その人はこの雪原の向こう、色とりどりの植物たちに囲まれた暖かい場所に住んでいる。柔らかい微笑みとふわふわした声を覚えている。あの人の優しさにもう一度触れたい。涙は溢れて止まらない。けれども、ここで立ち止まっている訳にもいかない。立ち上がり今度は走り出す。何度も躓きながら必死で目的地を目指す。すると、どこから賑やかな声が聞こえてくる。その中にあの人もいた。大きな声で名前を呼ぶ。くるりと振り返ったその顔は嬉しいと驚きの中間だった。慌ててこれらに向かって来て、私のことを抱き上げる。よく来たね、と優しく言うからさらに涙が出てしまう。頭を撫でる手と暖かさに包まれて冬のように冷たかった心は優しく溶けていくのだった。