「Today is a special day!」
その言葉と共に、クラッカーが鳴らされる。テープの雨を浴びながら、僕は目を丸くした。
「いきなりどうしたの?」
困惑しながら訊ねる僕に、君は笑ってこう言った。
「だって今日は君が生まれた日で、君が一年間生き抜いた日だよ。お祝いしなくてどうするのさ」
「どうするのって言われても……」
誕生日ではしゃぐような時期はとうの昔に過ぎ去った。だから、誕生日を祝われるのは、なんだか恥ずかしい。
そんな様子を察したのか、分かってないなぁと呟きながら、小さな子供に教えるように話す。
「一年間を生き抜くのって、実はとっても大変なことなんだよ。だから、それを成し遂げた君は偉い!」
そして穏やかな笑みを浮かべて言葉を続ける。
「また一年間生き抜いてみせて。そうしたら、また祝ってあげるから」
「……本当に祝ってくれるの?」
疑うような眼差しを向けて訊ねる。そんな僕に、君は満足そうな表情で。
「もちろん!」
そう自信満々に言った。
「でもその前に、まずは今年の分を祝わないとね」
ケーキは何が良い? と箱を開けて訊ねる君に、僕は苺のショートケーキと応える。
誰かに誕生日を祝われるのは、少しこそばゆい。でも、君が祝ってくれるなら。
また一年間、生き抜いてみようと思うんだ。
そっと吹いた風に、揺れる木陰。そこで少し休憩をする。
木陰は厳しい日差しを遮ってはくれるけれど、肌にまとわりつくような暑さを和らげてはくれない。
暑くなる世界、木陰では涼むことができなくなった夏。
もうこの場所に腰をかけて、本を読むことはないのだろう。それを寂しく思いながらも、やはり暑さには耐えきれず木陰から出る。
ここに居続けては命が危ない。
クーラーの効いた図書館へ向かうため、その場を後にした。
「I love you」
君に伝えてみた。直接的な表現は恥ずかしいから「月が綺麗ですね」なんて言葉もあるけれど。僕にとって詩的な言葉を言う方が恥ずかしくて。ストレートに気持ちを伝えた。……案の定、「直接的すぎない?」と言われたけれど。
君はクスッと笑って。
「I love you too」
と応えてくれた。
傘にあたってぽつぽつと鳴る雨音は、タイミングも、音の大きさもばらばら。
でも、その不規則性が癖になる。
静かな雨の中、突然開かれた一期一会の演奏会。目を閉じて、そっと耳を傾けた。
美しいの価値観は人それぞれで違う。
だから、僕が美しいと感じたものを、誰もが美しいと感じるわけではないし、逆に誰かが美しいと感じたものを、僕は美しいと感じないかもしれない。
それでも、今こうしてひたむきに努力して、苦しみ、もがきながらも夢に向かって前に進もうとする君の姿は。
たとえ世界中の誰もが顧みなかったとしても。
僕は「美しい」と感じるよ。