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「Today is a special day!」

 その言葉と共に、クラッカーが鳴らされる。テープの雨を浴びながら、僕は目を丸くした。

「いきなりどうしたの?」

 困惑しながら訊ねる僕に、君は笑ってこう言った。

「だって今日は君が生まれた日で、君が一年間生き抜いた日だよ。お祝いしなくてどうするのさ」

「どうするのって言われても……」

 誕生日ではしゃぐような時期はとうの昔に過ぎ去った。だから、誕生日を祝われるのは、なんだか恥ずかしい。
 そんな様子を察したのか、分かってないなぁと呟きながら、小さな子供に教えるように話す。

「一年間を生き抜くのって、実はとっても大変なことなんだよ。だから、それを成し遂げた君は偉い!」

 そして穏やかな笑みを浮かべて言葉を続ける。

「また一年間生き抜いてみせて。そうしたら、また祝ってあげるから」

「……本当に祝ってくれるの?」

 疑うような眼差しを向けて訊ねる。そんな僕に、君は満足そうな表情で。

「もちろん!」

 そう自信満々に言った。

「でもその前に、まずは今年の分を祝わないとね」

 ケーキは何が良い? と箱を開けて訊ねる君に、僕は苺のショートケーキと応える。

 誰かに誕生日を祝われるのは、少しこそばゆい。でも、君が祝ってくれるなら。

 また一年間、生き抜いてみようと思うんだ。

7/18/2025, 5:14:25 PM