「__いつもと変わらない」
マンションのベランダから見下ろすのは、街。
そこには、車のライト、ビルの光、街灯が夜の街を照らしていた。
いつもの風景である。
「__街の明かり」
いつもと変わらない、街の明かり。
「__ベガと、アルタイルだよ」
「__ユナは夢がないなぁ、もう。そんな堅苦しい呼び方じゃなくて、彦星様と、織姫様だよ」
私は、事実を言っているだけなのに、いとこにそれを否定される。
夢がないのは、どっちの方だ。
「…どっからどうみても、ただの一等星なんだけどな。昔の人はどうやってその逸話を作ったんだか」
「まあまあ、そんなきつく言わないの」
私の夢の無さを肯定するいとこは私を慰める仕草をする。
「…また、会えないんでしょ」
それは、ベガとアルタイルの逸話の登場人物に言ったのではない。いとこと私に、言ったのだ。
それは毎年のことなので、語尾に疑問符がつくことはない。
「…うん。ごめん」
「……不思議。七夕しか会えないなんてさ」
「………彦星様と、織姫様みたいだね」
「…………ベガとアルタイルだってば」
沈黙が増えていく。
やがて、沈黙はその場を支配した。
それよりも、私が言った、星の呼び方を完全に無視して、逸話の呼び方をするいとこに、悔しさを覚える。
きっと、涙がでているのも、そのせいだ。
「…引っ越し?」
「うん、結構遠くに行くことになっちゃった」
平然とした態度で、隣にいる親友__トモコは事実を伝える。
引っ越し。意味がわからない。何故そんな平気そうなのか。
悲しくないのか。私が嫌いだったのか。
(否定したいけど、否定できない。トモコも、こんな私に愛想が尽きたのかな)
「__楽しかったよね、色々」
(何で今さらそれ言うの)
「……そうだね」
「二人で買い物に行ったときはさ__」
それからトモコは、思い出を話し始めた。止まることなく。
(…速く、どっか行けよ)
ふと、あることに気づく。
トモコの語る声が段々頼りなくなっている。
そして、最後には、「ごめんなさい。ごめんなさい」とすがりつくように、私に謝る。
「ほんとは、引っ越し、なんか…行きたく、ないんだ。ユミと、一緒に、いたいよ」
__友達との最後の思い出。
「__願いが叶うといいな」
淡い期待を胸に、私は星空を見上げた。
貴方を見ていた。尊いものを見るような視線で。
貴方のことが好き。この口で愛を伝えて。
貴方が私のことを理解してくれる。
だから、好きなんだ。どうしようもなく。
この恋の行く末は、神のみぞ知る。