NoName

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5/14/2023, 2:23:45 AM

雨が屋根に当たる音。
包丁が野菜を刻む音。
コトコトと煮込む音。



そんな音で目覚める朝、まだ覚醒しきらない頭のまま。
ゆっくり身体を起こすとあの子がこちらを振り向いて、


「やっと起きた、おはよう、お寝坊さん」


と笑う。仕方ないなあって顔で。
愛おしさが膨れ上がり、縺れる足もそのまま抱き締める。

わ、と驚いた声を上げて、それでもやっぱり
仕方ないなあって笑って抱き締め返してくれる。



そんな、そんな優し過ぎるおうち時間。











ああ、そんな時間を過ごしたかった、なあ。


ぴ、ぴ、と何かを図る音。
落ち着きのない大人の声。
強過ぎる力で握られる手。



そんな音を聴きながら、ゆっくり意識を手放す。
最期に見たあの子の顔は、どうしてか思い出せない。



ピーーーーーーーーーーーーーー。

4/20/2023, 11:40:19 PM



太陽みたいに明るいその人は、いつだって僕の事を無条件に照らしてくれる。その暖かさが心地好くて好きだった。

でも彼女は、誰がどう見たって魅力的な人なのに自分を好きになれない苦しい人だった。あれだけ隣に居た僕の肩にただ寄り掛かる事でさえ躊躇うような、悲しい人だった。


何度も声を掛けた。

〝そんな事負担になんて思わないよ〟
〝僕には頼ってよ、辛い事は教えてよ〟
〝君がくれた暖かさを少しでも返したいんだ〟
〝笑いかけてくれる嬉しさを、分かち合いたいんだ〟

緩やかに、緩やかに彼女は僕の言葉を飲み込んではくれるけど、僕の願いは飲み込まないまま、今日も暖かく笑う。



ああ、嗚呼、もう僕は何もいらないから、だからどうか。
彼女が何にも苛まれず、心から楽しいと思えますように。