『泣かないで』
「用意できたか?」
「…うん」
いつもならまだ寝ている時間。休日の朝、私は凍えないよう着込んで、父と車に乗り込んだ。駅に向かわなければいけない。
1年生の時、クラスに馴染めなかった私に、同情でもなく、嘲笑うでもなく、ただ興味を持って話しかけてくれた親友が、今日遠く離れた街に引越しをする。最後のお見送りをするため、父に頼んで車を出してもらったのだ。
駅に着くと、いつもと変わらない姿で、一緒に買ったお気に入りの服を着て親友はそこに立っていた。
泣かないよう、笑って見送ろうと思ったのに、親友は寂しげな顔をして、目を潤ませた。そんな顔しないでよ。
「今までありがとう」
そんな事言わないで。
「泣かないでよ…」
「そういうあんただって泣いてるじゃん」
気づくと目から涙が溢れていた。
「2人して泣いてるね」
そう言って彼女が笑ったから、私も精一杯笑ってやろうと思った。
いつかまた、その時まで。
『冬の始まり』
最近寒くなってきましたね。
涼しくなってきて、部活もやっと引退して(文化部なので遅かったのです)、いよいよ受験も目の前。
ついこの間、卒部はもうしていたのですがお別れ会があって。
1年生、臨時休校が終わってから暑い夏にした初めての部活。
あの日と同じことをする時間を後輩たちが数分だけ作ってくれて。
あの日とは比べ物にならないくらい仲良く、大事になった友達と一緒に楽しみました。
とても暑くて緊張していたあの日と、涼しい風が吹くとても楽しい数分が重なってなにか込み上げてきてしまって。
泣かないと思っていたのに最後の最後で泣いてしまいました。
ああ、冬が来る。
しみじみする間もない大変な冬。
受験生の貴方、一緒に頑張りましょう。
自分の事を文にするって小っ恥ずかしいですね。
『愛情』
いつからだろうか
友達の1人でよかったのに
ただ貴方と笑って話をするだけでよかったのに
それ以上なにも要らなかったのに
いつからか
それだけじゃ足りなくなってしまって。
貴方に振り向いてほしい
私が貴方に向ける愛情に気づいて
貴方も私に愛情を注いでほしい
貴方以外の愛はいらない
貴方も私以外の愛は受け取らないで
こんなに愛を注いでいるのに
貴方は気づいてくれなくて
貴方に気づいてほしいのに
貴方に気づいてほしくない
この関係が壊れたら
貴方は私を見てくれなくなるかもしれない
貴方の視線が欲しいから
私は今日も貴方の言葉を待つ
愛情
愛?
違う
貴方を独り占めしたい
愚かで意地悪な
独占欲。
澄んだ空と涼しい風が心地よくて、新品のマフラーをして駅へ向かう。町はどこか寂しげだった。
ホームのベンチに腰掛け、小さな鏡を取り出し前髪を整える。
いつもの場所、いつもの時間。今日もあそこにいるだろうか。
聞き慣れたブレーキ音に胸が高鳴る。一歩を踏み出して電車に乗った。
あ。
いつもの席、いつもの制服のあの子。
だけど、初めて見る手袋。
初めて感じる視線。
あの子と目が合った。
「ねぇ」
「今日はあったかそうだね」
窓の外が、淡く色づく。
真新しい真っ赤なマフラーが、私を染めた。
『微熱』
世界の終わりに君と
なんて言えるような価値なんかないって知ってるから、私は私を褒めたい。
今までよく頑張ったね、消えたいって想いが届いたねって。
もしもその時、死にたくないなんて思えたなら
死にたくないと思えるぐらい、明日があってほしいと思えるぐらいには楽しめてたんじゃんって。
ああ、世界が終わる。
全て消える。
私の真っ黒な過去も、楽しかった思い出も全部。
じゃあね、私。
ありがとう。