『泣かないで』
「用意できたか?」
「…うん」
いつもならまだ寝ている時間。休日の朝、私は凍えないよう着込んで、父と車に乗り込んだ。駅に向かわなければいけない。
1年生の時、クラスに馴染めなかった私に、同情でもなく、嘲笑うでもなく、ただ興味を持って話しかけてくれた親友が、今日遠く離れた街に引越しをする。最後のお見送りをするため、父に頼んで車を出してもらったのだ。
駅に着くと、いつもと変わらない姿で、一緒に買ったお気に入りの服を着て親友はそこに立っていた。
泣かないよう、笑って見送ろうと思ったのに、親友は寂しげな顔をして、目を潤ませた。そんな顔しないでよ。
「今までありがとう」
そんな事言わないで。
「泣かないでよ…」
「そういうあんただって泣いてるじゃん」
気づくと目から涙が溢れていた。
「2人して泣いてるね」
そう言って彼女が笑ったから、私も精一杯笑ってやろうと思った。
いつかまた、その時まで。
11/30/2022, 12:02:11 PM