長い道程だった。
ここまでくるのにどれほどの時間を費やしたことか。
さあ、思い出に浸ってばかりもいられない。
ここからが本当の始まりなのだ。
「あ、そうだ」
やっと手に入れた大事な相棒を残し始まりの部屋に踵を返す。
「リセットなんだから消えりゃあいいのに、なんで残っちゃったんだろ」
大量に積み上げられた始まれなかった自分たちが闇い目でこちらを見ているのに笑顔で手を振り、閉じた扉に鍵を掛けた。
♯旅路の果てに
車窓を流れる景色を食い入るように見つめる僕をよそに、
彼は自分のささくれと戦っていた。
一度気になると触らずにいられない性分は変わらずらしい。
あてのない逃避行に言葉一つと小さなリュック一つで
隣に陣取った彼に何を言うべきか分からないまま
駅に着いたら買うものリストに絆創膏を追加しまた外を眺める。
流れる緑が減り次第に家やビルや看板ばかりが目につくようになった。
♯街へ
隣で突然笑い出したわたしに怪訝な顔をする
君がひとりで歩くときは早くて追いつけないこと
知っているよ
♯優しさ
聞いてよ!もう最悪な夢見ちゃってさあ
それで遅刻…はごめんって、ここ奢るから許してくれよ。
えっと、この店の近くの地下鉄の駅あるじゃん。
僕もこの後そこ使うんだけどね、階段降りようとしたら誰かに後ろから突き飛ばされてさ。完全に宙に浮いちゃって地面に頭から落ちる、あ、僕死んだな、ってとこで目が覚めたんだよね。めちゃくちゃリアルだった。
それで大慌てで準備して、でも結局待ち合わせには10分遅刻しちゃったんだけどね。
遅刻したお詫びにお茶奢って、夢見が悪かった話をするんだよ。その後店出たら近くの地下鉄の駅に行くんだけど、階段から突き飛ばされた。近くに人なんていなかった。
あ、死んだなって思ったら目が覚めたんだよね。
時間見て慌てて準備したんだけど、また10分遅刻しちゃった。
♯こんな夢を見た
月が大きくて、綺麗だった
君から連絡が来た
明日の約束がある
ポケットに突っ込んだ手でリズムを鳴らす
深夜1時のいつもの帰り道
♯特別な夜