お祭り
俺が中学生のころ住んでた小さな町では、
山の上の運動場でお祭りがあった。
友達と屋台をふらふら回っていたあの時、
すれ違った。
そう、あれは確かに隣の席のあいつだった。
俺はあいつのことが苦手だった。
学級委員長をしているあいつは、ザ真面目というか
冗談が通じないというか、
こっちが話しかけても態度がそっけない。
休み時間も教科書をひとりで読み込んでいて、
笑っているところなんて見たことない。
だけど、すれ違ったあの瞬間、
彼女は笑っていた。
色白の肌に似合う紺色の大人びた浴衣を身につけ、
長くて綺麗な黒髪をふんわりと束ねた彼女は、
目を細めて優しい笑顔を一緒にいる友人に見せていた。
ーなんだ、笑うんじゃん。
あの瞬間からなんだ。
俺の中であいつのことが気になり出してしまったのは。
あの笑顔を俺にも見せてくれって
不覚にも思ってしまったんだ。
神様が舞い降りてきて、こう言った。
「お前らの願いは沢山叶えてあげているのに
私の願いは誰も叶えてくれない。」
ー神様、貴方の願いは何でしょうか?
「正月にゆっくり過ごすことだ。
お前らが押し寄せるから正月は慌ただしい。
私だって大学駅伝を応援したいのだよ。」
鳥かご
「私はまるで鳥かごに閉じ込められた鳥のよう。」
偶に小説などで目にするこの言葉。
私は自分の鳥かごがあることは素敵な事だと思う。
自分の帰る場所、安心できる場所があるからこそ、
人は外に出かけたくなる。旅をしたくなる。
だけど、どんな旅人でも死ぬまでに
世界中全ての人と出会うことはできないし、
全ての自然を目にすることもできない。
その意味では、人間はどれだけ頑張っても
自分の鳥かごの中からは逃れられないのかもしれない。
友情
私には「友達」はそこそこ沢山いるけれど、
全てに「友情」が芽生えているわけではない。
「情」ってやつは一緒に苦しいことや嫌なことを乗り越えて初めて生まれるんだと思う。
楽しいことをするだけの友達には情は生まれない。
苦しいことに直面すると
相手に対して苛立ちや葛藤、悲しみなど、色んな負の「情」も生まれるけど、
それを克服するうちに
不格好な「友情」が芽生えるんだろうな。
そしてそれは一生物の財産になる。
花咲いて
3月のとある日。
外は麗らかな風が吹いているようで、庭の沈丁花がゆらゆらと気持ちよさそうになびいている。
そんな中俺はパソコンをじっと睨みつけている。
心臓の鼓動が喉に伝わって、
無意味に何度も唾を飲み込む。
部屋は心地いい温度なはずなのに、
信じられないくらいの汗が流れる。
そのくせ手先は氷のように冷たい。
震える手でマウスを握って、クリックする。
「合格」
全身の力が一気に抜けた。
フワフワする。
ほんとに、、受かった。
先生に無理だと言われた志望校。
貫いたけど、現役の時は歯が立たずに破れた。
それでも諦めきれず一浪する道を選んだ。
周りはみんな大学生になった中、自分の選択に不安を覚える日もあった。
けど、、俺にも春が来ました。
やっとやっと春が来ました。
桜の花が咲きました。
ありがとう。俺を支えてくれた全ての人に感謝。
そして諦めずに足掻ききった俺自身にも感謝。
よく頑張ったな、俺。
かっこええ医者になろうな。