時を告げる
教室はもうすでにざわついていて入りにくい。唯一の親友ともクラスは離れてしまい、私の緊張は極限まで達していた。
勇気を絞って教室に入り、自分の席を確認する。なるべく緊張がバレないように動揺を隠すことだけを考えていた。やっとのことで席に座るが、緊張で周りを見ることは出来ない。今日の提出物や予定表を見て時間を潰すことにした。
5分ほど後に肩くらいの髪の子が隣に座ったのが分かった。でも目線を隣に向けたり、話しかける勇気はなく、気になる気持ちを抑えて担任を待った。
入学式を終え、自己紹介をして分かったのは、隣の子は私よりも暗そうだということだ。細いメガネがよりその雰囲気を作っている。でも悪い子ではなさそうだったので、授業が終わった後話しかけてみた。私は初対面の場合、変な勇気が出て話しかけてしまう癖がある。だから明日には多分挙動不審になってしまうが、しょうがない。
「あの、高橋です。これからよろしくお願いします。」
なるべく明るく話すが、緊張で早口になり意味はなかった。
「あ、うん、よろしくお願いします」
軽くお辞儀される。
これは自分の挨拶が悪いわと思いながら、
「じゃあ、また明日」
と恥ずかしさのあまりそそくさと教室を出た。
暗いけど、雰囲気が柔らかくて、髪がサラサラで、名前が可愛い女の子。(あと、そのうち知るのだがこの子の笑顔はとびきり可愛かった。)
この先仲良くなれるかな、明日どんな話しよう。
緊張と恥ずかしさと期待と不安で心臓はバクバク音を立てている。その音がこれからの始まりを告げているような気がした。
貝殻
「お前は良いよなー何でも出来て。」
中島は再試確定のテストを見て落ち込んでいる様子だ。
「まぁーな。」
爽やか、何でもそつなくこなす。
周りからはそう思われているらしい。
まあ、実際モテて、成績が良くて、生徒会に入っているような奴だ。そう思われても不思議じゃない。
でもひとつ言わせてもらいたい。俺は必死に、努力してる。
目標のために毎日を積み重ねてるだけ。
それなのに周りは俺の表面しか見てない。親さえもだ。
中島の言葉が夜になっても頭から離れない。
シャーペンを置き、俺は自転車で海に向かった。
むしゃくしゃした時は決まって貝殻を集めてしまう。
懐中電灯で照らしながら、砂浜をじっと見つめる男の姿はかなり不気味だと思うが、気にしない。波の音を聞きながら夢中で貝殻を探していく。
大きいもの、渦を巻いたもの、つるつるしたもの、派手な色のもの。
集めるまでは知らなかったが、貝殻はとにかく個性的だ。
そしてどの貝殻にも模様がある。模様からどうやって貝殻が作られてきたか分かる所もいい。
そのうち、むしゃくしゃした気持ちは消えて家へ帰ることにした。
母親に気づかれないように静かに洗面所に向かい、貝殻を軽く洗った。
自分の部屋に戻り、改めて今日の貝殻を見てみる。ずっと欲しかった形を拾えたのはラッキーだった。
美しい形と色を持っているのに、貝殻はかなり固くて頑丈だ。中身はぶよぶよでかっこ悪いから、固い美しい殻で自分を守ってるんだろう。
俺は何で自分を守ってるんだろ。
カラン、コン、コツン、
貝殻をビンに入れる音だけが静かに響いていた。
きらめき
ぼっーと天井を見ている。朝から絶好調だったのに、みるみる熱が上がって今は寝ることしか出来ない。
しかもまさかのコロナだった。最悪だ。
今までコロナになったことはなかったのに、今更飛びかかってくるなんて。
不貞腐れた気持ちで目を閉じたり、開けたりしていたら
真っ暗闇に鏡のような波のようなうねうねした光が見える。
私は一生懸命目で追うけど、光はどっかに行ってしまう。
だんだん、光はぐるぐる回ってることに気がついて
あーこれはまずい、高熱だ
なんてことを思いながら、ゆっくり眠りについた。
些細なことでも
朝ご飯にしらすと生卵、明太子を乗っけた丼を母が作ってくれた。
嬉しくて、朝からこんな贅沢いいの!?と母に尋ねたら
あなたの明太子大きいやつだよ
と言われて自然と口が横にのびてた。
明太子が大きかった、そんな些細なことだけど。