『クリスマスの過ごし方』
「1999」
予言ってやつは面白い。
生真面目な顔してビジネス書と吊り革を天秤に掲げているようなサラリーマンも、心臓に4つあるうちの1つの部屋の中でその結末を抱えている。
予言ってやつは恐ろしい。
その通りになってもならなくても、誰かの運命を変えてしまう。
予言ってやつは適当に付箋を貼ったページの、その先まで命を運ぶ方舟だったりする。
あとがき
羊文学の「1999」という曲は人類必聴のクリスマスソングだという自負があります。
『ゆずの香り』
「言ってくれれば取ったのに。」
カウンターに並んで座った彼女の右腕が視界を覆い、ナプキンを口に押し当てながら言う。
「いつも誰がその服を洗濯してるか知ってる?」
青年は肩をすくめながら目の前の空のどんぶりに目を落とす。お椀に残るネギを数えているようで数えていない。見えているようで見ていない。
「最近は仕事もかなり落ち着いてきたから、少しずつ家事を手伝ってみるよ。」
「手伝う?」
「えっ。」
青年は自分で撒いた地雷の存在に気づけなかった。手伝う程度ではいけないのだろうか。半分くらいは手伝うと豪語してみるべきだったか。
「そういうところだよ。」
「ごめん。」
「私が何言ってるか全然わかってないでしょう。」
青年の頭にはどろどろと固まったタールが離れず、もはや八方塞がりといった様子で何も考えられなくなっている。
「一旦出ようか。」
彼女の一言でラーメン屋を後にする。
普段から仲の良いカップルだと自負はあったが、こういった些細な諍いは後をたたない。青年にはきっかけも過ちもちんぷんかんぷんだったが、とにかく謝ることで切り抜けてきたつもりだった。そうしておけばその場はまた温もりを取り戻すからだ。
「お米付いてるよ。」
背伸びした彼女の右手が口元に届く。
「お腹いっぱいになった?もうちょっとゆっくり食べなね。」
さっきまでの試験官のような目付きとは打って変わって、爽やかな香りが頬を掠める。