「花畑」
「うわー、綺麗」
花畑をくるくると周りながら彼女はそういう。
「ねぇ、綺麗だね」
「そうだね」
「もー、ねぇ綺麗だね」
「うん。そうだね」
俺の返答に納得がいかないのか、何度も繰り返し聞いてくる。最後には、頬を膨らまして拗ねてしまった。
「"君のほうが綺麗だよ"とか言えないの?」
「君が綺麗なのは、いつものことだから」
「もー、そういうとこ嫌い」
何故かもっと拗ねられてしまった。
花畑の中にいる彼女は、どの花よりも綺麗だった。
「命が燃え尽きるまで」
【ごめん。これで連絡最後にするね】
彼にこれだけ伝えたいと、病室を抜け出してメールを入力する。
【私達、別れましょう】
後は、送るだけ。
「なんでかな?手が震えるな。病気のせいかな?」
送るだけ。そう。送るだけなのだ。
送らなければ、彼の迷惑になってしまう。
「ごめん。やっぱり送れない」
【好きだよ。ごめん。死ぬまで好きでいさせて】
好きだよ。命が燃え尽きるまで。
「夜明け前」
「なんで起きてるの?まだ夜だよ?」
「タバコ」
ベランダでタバコの煙に巻かれながら彼はそういう。
「ベランダで吸ってほしいって言ったの守ってくれてたんだ」
「約束は守る」
「そう?そのわりには、まだプロポーズはされてないけど?」
いつかのときに口に出した。そろそろ結婚しよう。毎回有耶無耶になって終わってしまう。
どうせ、夜が明けたら彼は忘れてしまうのだろう。ならば、これくらいイジワルしても許されるはずだ。
「忘れてた」
彼は、タバコの火を消した。
「夜が明けたらプロポーズしてやるから待ってろ」
そういうと、彼はベットに潜り込み、寝息をたてはじめた。
「はぁ、惚れ直しちゃうな」
夜明け前がこんなに美しく思えたのは、いつぶりだろうか。
「本気の恋」
「好きだ」
横に座る彼が急に呟いた。私達の関係は、友達。それ以上でも以下でもない。なのに、彼は好きだと呟いた。
「何が?」
私は、あくまで鈍感ですよ。という風を装い質問を投げかけた。彼は、頭をかきながら悩む素振りを見せた。
「それは、断ってるってこと?」
彼は私の目をじっと見る。思わず私は、目を逸らしてしまう。
「逸らさないで、答えて。俺のこと、どう思ってるの?」
唇が震える。言ってもいいのだろうか。この関係を変えてもいいのだろうか。頭の中にそんなことが、駆け巡る。
「俺、本気だから」
私は、「私も」と呟いた。