楽園
おめでとう!君は死後楽園へ招待されることになった。えーっと、君のことはこの神に事細かく記載されているよ。今回は生前の善行が神様に認められたみたいだよ。特に!ボランティアに積極的に参加して社会貢献したことが得点が高いねぇ。わー、これなんてすごい。不自由な人をサポートしながらキャンプ泊だって。いーなーうらやましーなー。案内人に人間の言う休みなんて無いんだよ。自然に囲まれてバーベキューとかしたーい。あぁ、話がそれちゃった。とにかく、君は楽園でのんびりしたり、遊び尽くしたりできる権利をもらったみたいだ。もちろん、楽園に行かないで次の人生を待ってもいいよ。選択は君の自由だ。
……楽園へいくんだね、もちろん大歓迎さ!すでに多くの人間がそこで暮らしているよ。君はどんな風に過ごすのかな。
ああでもその前にね、
次はこっちの紙を読んでいこうか。うわあ、君小さい頃好き嫌いしてたの?食材は無限じゃないんだからちゃんと食べなきゃ。あ、信号無視もしてる。人から借りたものを返さないでいるしおかあさんに反抗的な態度もとってたんだね。極めつけはこれ。ボランティアって名目の場所で見つからないように暴力、窃盗、その他諸々……あはは、こんなのを善行とか呼んでる人間ってほんと面白いよね。ああまたそれちゃった。僕の癖なんだよね。案内人って用紙に従って案内するだけでほんっと暇なわけ。だからなるべく人間のことを知っていこうと思って。まあそんなことしても特別意味ないんだけどさ。
で、楽園へいくにはこの悪行を悔いて修行しなきゃいけないの。お寺の修行みたいなやつじゃなくて、えーっと人間で言う「地獄」?ここに死の概念はないから何度も何度も修行を行えるんだ。ああ、痛みはちゃんと感じるみたいだよ。生存本能である痛みを感じるなんて人間って不思議だね。小さな悪行も大きな悪行も全てを悔い改めるほどの修行が行えたら無事に楽園へ行けるよ。この前の人間は途中で転生を選んだけどね。
君は楽園へ行くことを選んだもんね。何度も何度もすり潰されて燃やされて砕かれて刺されて絞められて苦しんで苦しんで苦しんでね。それが君の罪であり人生だったのだから。ふふ、君はどれくらいもつかな
ルール
ルールはなんのためにある?皆が安全に遊ぶため?誰しもが平等に生きるため?普通の人間をつくるため?
ルールが人を守ってくれるのならどうして僕を守ってくれないの。こんなに苦しんでいるのにルールは適用されないの。人生のルールには弱いものを殴って蹴っていじめては行けないというルールがあるはずでしょう。どうして僕は無視されるの。どうして平等に生きさせてくれないの。僕が何をしたっていうの。
○月○日
とある学校のとある教室。いつもは整っている机の列が大いに乱れ、ホコリのように生徒が教室の隅で彼らを見ている。彼らとは、被害者と加害者。いや、加害者だったものと、被害者じゃなくなった者と言ったほうがいいだろうか。椅子の四肢の一つからは赤い液体が床へ落ちていく。それを持つ生徒の目は冷ややかだった。彼が目を向けるのは頭から血を流した男子生徒の一人だ。いじめの主犯だった彼はうめき声をあげることしかできないようだ。
大きな足音が教室へ近づいてくる。どうやら大人たちが生徒に呼ばれて来たらしい。加害者生徒は取り押さえられた。彼は少しも抵抗しなかった。そればかりか大人に身を委ねるように体から力が抜けていた。不思議と、彼は笑っていた。それは、嬉しそうな、何もかもが馬鹿馬鹿しくなったような微笑みだった。
たとえ間違いだったとしても
この町には有名な踊り子がいる。足が長くて顔も綺麗。足先から指先まで美しいものだから、平民だけじゃなく貴族様も気に入ってるらしい。
「こ、ここここんにちはシルベチカ」
「ええ、こんにちはコリウス。今日も見に来てくれたのね」
彼女はシルベチカ。名前通り可憐で美しい女性だ。毎晩ショーがあって、僕はそれを毎日見に来ている。彼女が踊るとどの演目も思わずみんなが魅入ってしまうんだ。流石だよね。それに比べて僕はただの平民で少し離れた所でパンを売っている。シルベチカがパンを食べてくれるからお店も繁盛してるんだ。頼りっぱなしで申し訳ないなぁ
「コリウスは何かしたいことはないの?」
「無いよ。あっても平民でとろい僕じゃ何をやっても失敗するはずだ。このままが一番だよ。シルベチカはなにかしたいの?」
「私は旅に出たい。色々な国の踊りを踊ったり美味しいものを食べたいの。隣にあなたがいてくれたらもっと楽しいわ」
「や、やめてよ。嬉しいけど、君と僕じゃ釣り合わないよ。君はとても綺麗だ。いつか、お貴族様にお嫁さんにしてもらえばきっとどこへでも行けるさ」
彼女はぼくに優しく微笑んだり、時々勘違いしそうになるようなことを言う。こんな僕のことを好きなわけないのに、好きなのは僕の方なのに。僕の言葉を聞いて不貞腐れたような顔をする。そんな表情もかわいいなぁ、なんて言ったら怒られちゃいそうだな。
「あなたは間違いを恐れているのね。生きていて間違えないことは絶対にないわ。たとえ間違っていたとしてもそこからどうするかを考えることが大切なのよ。」
「君は、強いね。僕とは大違いだ。それに比べて……」
「また卑屈になっているのね。あなたのことは好きだけれど、そういうところは好きじゃないわ。直してくれなきゃ嫌いになってしまう。……私はあなたにその名前は合ってないと思うのよ」
それを言ったあとに彼女は別の客のもとへ行ってしまった。また、勘違いさせるような事を言っていたなあ。他の人にもそんなことを言っているのかな。なんだかもやもやしてしまう。
今日はお貴族様がいらっしゃるみたいだ。護衛なのか鎧を着た男が数人いる。その中央にキラキラした人がいるからその人が一番のおえらいさんだろう。彼女の演目が始まる。赤いドレスを身にまとい情熱的なダンスをしている。いつ見ても綺麗な彼女は本当に踊りが好きなのだろう、いつもよりももっといきいきとした表情が輝いている。お貴族様も彼女の演目に前のめりになって見ている。護衛ですら見惚れたみたいだ。
「コリウス、今日も来てくれたのね嬉しいわ。ねえ、今日の私はどうだった?素敵だった?」
「もちろん。いつも綺麗だけど今日は情熱的で素敵だったよ」
「ありがとう!あなたならちゃんと見ていてくれると思っていたわ。本当はもっとお話したいのだけれど貴族様に呼ばれているの。また後で会いましょう」
彼女はまた、お貴族様が待つ別室へと歩いていってしまった。あのね、シルベチカ。僕もね、本当はもっと君と話したいんだ。……なんて、言えたらいいのに。
最近はシルベチカの演目が無くなってしまった。あの日のお貴族様が彼女を買ったみたいだ。良かったね、シルベチカ。これで君のしたいことがきっと叶うはずだよ。でも、どうしてかな。ずっと、心にぽっかり穴が開いたみたいな気持ちなんだ。
「……会いたいよ、シルベチカ」
これが僕の、今のしたいことだよ。
お貴族様がパーティを開くみたいだ。と言っても庶民も参加できる言わば町ぐるみのお祭りのようなものらしい。広場では踊り子の演目が予定されている。そこなら、きっとシルベチカに会える。
パーティ当日。どこも沢山の人で賑わっている。美味しそうな匂いがしたりキラキラな装飾が売られていたりする。あの首飾りはシルベチカに似合いそう。すぐに購入して広場へと向かう。
丁度シルベチカの演目が始まるみたいだ。今日も綺麗だ。だけど、あまり楽しそうじゃない。いつもはあんなにも踊りを楽しんでいたのに。あ、目が合った。その瞬間の彼女の表情が頭から離れなかった。悲しそうな寂しそうな辛そうな顔だった。どうして?君はお貴族様に気に入ってもらえて、うまく行けばどこへでも行けるほどのお金が手に入れられるはずだったのに。
気がつけば演目が終わっていた。沢山の人が彼女を称える。美しく誰もを魅了する踊りだったのは間違いがなかった。僕は彼女が分からなくなった。
結局、首飾りは渡せなかった。彼女の周りにはあの日いたお貴族様といかにも高貴そうな人がたくさんいたから。僕は本当に意気地なしだなあ。辺りは暗くなりつつあり、街灯がつき始めている。帰ろうかな。シルベチカも見れたことだし、もう大丈夫だ。
帰路の途中、聞き慣れた声が悲鳴のように僕に届く。走って見に行くとお貴族の護衛の一人が彼女に迫っていた。彼女の目からは涙がこぼれている。
「か、彼女をはなっ、離してください」
気がつけば彼女から男の人を離し、守るような体勢になっていた。膝が震えて小鹿のようになっている。それでも、守らなきゃ。男の人が殴る構えをする。ぼこぼこにされると覚悟して目をつむる。だが、どれだけ待っても衝撃がこない。目を開けるとお貴族様が護衛の手を強く握っていた。複数の護衛も一緒で男の人は連れて行かれた。
「彼女を守ってくれたこと、感謝する。行くぞ」
彼女を無理やり連れて行こうとする。彼女は青ざめた顔をしている。
「まっ、待って、待ってください。彼女が、嫌がってます」
「彼女は私のものだ。ものが嫌がろうが何をしようが私に従わせるだけのこと。お前は、私のやり方に口出しをするのか」
目だけで人を殺せそうな圧がある。こういうものを殺気というのだろうか。
「い、いいえ。で、でも…」
「まだなにか?」
「なんでも、ありません……」
結局、彼女はお貴族様に連れて行かれた。また何もできなかった。
ある時から店にお客さんが来なくなった。正確には護衛の人達以外は、だ。その人達は店のものを踏みつけたり、お金を払わずに食べ始めたり、僕の家族を怒鳴りつけたりしてきた。やめてと言えば砂袋のように投げられたり、蹴られたりする。僕を含めて家族の皆が心身共に疲弊していとも簡単にお店は潰れてしまった。ある護衛の一人が言っていた。こんなことをしていいと許可してくれたあのお貴族様に感謝しなきゃって。僕への、嫌がらせだ。僕がシルベチカのことで口出ししたから。僕は間違えた。間違ったせいで皆に迷惑をかけた。
幸いにもお父さんとお母さんは知り合いに仕事を紹介してもらえたし、僕も毎日のように通っていた劇場で働かせてもらえることになった。前よりも収入は減ったけど暮らしていけている。
僕はもう、間違えない。シルベチカのことは、忘れてしまおうか。
神様は意地悪だなぁ。どうしてこんなことを僕につきつけるの。ある新聞。お貴族様のお気に入りの踊り子が反逆罪で処刑されると決定された。その写真はシルベチカだ。見間違うはずがない。彼女だった。彼女は逃亡しているらしい。でも、彼女ならきっと大丈夫。シルベチカはとても、強いから。とても…。助けたときの彼女の表情がまた思い出されてしまった。本当に大丈夫だろうか、捕まったら処刑されてしまうのに。
でも、もう間違えたくないんだ。僕はシルベチカも家族も大事なんだ。
夜、誰かが家を訪ねてきた。シルベチカだった。泣き腫らした顔で僕を見つめてきた。途端にまた目から涙があふれていた。
「コリウス、私は、間違えてしまったわ。あなたが、酷い目にあっていると聞いて、カッとなってしまったの。もう、どうしたらいいのか分からないの。ごめんなさい、コリウス、ごめんなさい」
「シルベチカ、泣かないで。僕は一度君を忘れてしまおうとしたんだ。家族を大事にしたくて、僕のせいで家族に迷惑をかけてしまったから。でも、でもね、どうしても君のことが忘れられなかったんだ。君の事が好きだから。家族と同じくらい大切だから。ねえ、逃げようか。たくさんの場所を旅をしよう。君とずっと一緒にいたいんだ」
「コリウ、ス、」
彼女にそっと口づけをする。僕は彼女を必ず守る。それはお貴族様に、この町に背くことになる。でも、それがたとえ皆の言う間違いだったとしても僕は僕の選択を間違えない。大好きな彼女のために。
今は、彼女と家族とともに町からずっと遠い小さな村で暮らしている。村長さんも歓迎してくれて今では彼女は村の人気者だ。これからも、この幸せを絶対に手放したりなんかしない。これが僕の選択。
シルベチカ わたしを忘れないで
コリウス かなわぬ恋 善良な家風
個人的感想 えっ、長っ……最期まで読んでいただきありがとうございます
両の手から水が溢れている。端正で中性的な顔立ちのあの方は今日も村人ために力を使う。
「しずくさま〜?いい加減休憩してくださいよ」
「ワタシは水神だぞ。休まずとも死なん」
そういう問題ではないといつになったら気づいてくれるのだろう。
「……でもさ、明らかに力減ってません?村人が増えたわけじゃないし、厄災も当分は来ないって司祭サマが言ってましたよ」
「……?村人は増えているだろう」
「え〜どうしちゃったんですか。村長から何も言われてませんけど」
神様にもやっぱり休息が必要なんだな。相変わらずどっから見ても綺麗だし。関係ないか。
今日のお勤めも終わり、家に帰る。途中に村長の家があるけどほとんど会話したことないな。お勤めも村長に無理やり騙されて始めた感じだし。楽しいからいいけどさ。ふと、村長の家に数人いることに気がついた。何か会話をしているのが聞こえた。
「……ええ。あれはあの部屋から出られませんので貴方がたを知ることはないでしょう。」
「だが、はじめよりも水が減っているみたいだな。これは、こちらに気づいているわけでは無いのか」
「そんなはずはありません。いくら神といえどそんな力は聞いたことがありませんから。それで、紹介する代わりにあれはご用意していただけるのですよね」
「ああ。約束通りだったらな」
これは、もしかして、やばいのでは?バレないように家の前を通り過ぎようとする。
パキッ
うん、終わった。
「だ、誰だ?!」
慌てて村長が飛び出してくる。咄嗟に通りがかったふりをしたためか、特に気にされることはなかった。あのときの緊張感は忘れられない。死ぬかと思った。
翌日、雫サマの元へ話しに行こうとした。だが、遅かった。首に趣味の悪い飾りを付けられ膝立ちさせられてる。俯いているためその表情は分からない。
「なに、してんだよアンタら!!雫サマから離れろ」
「残念だな坊主。昨日のうちに俺達を殺しておけばこんなことにはならなかったかもな。テメェに俺達が殺せるとは思えねぇけどな」
アハハハ。賊共が気味悪く笑う。怒りで震えがとまらない。長と思われる奴に殴りかかる。拳が届く前に手下にとめられるが蹴り上げ、殴り、頭突きをし、もがいてもがく。多勢に無勢だっけ。まあ、こんなのに勝てるわけないわな。顔を地面に押し付けられる。それも、雫サマが目にとまるように。
「無様だな。おい、神。テメェを助けようとした人間が死ぬぞ。テメェのせいで犠牲になるんたぜ。可哀想にな」
「そん、なわけないだろ。雫サマ、アンタなら逃げれんだろ。なあ、雫!」
「コイツは逃げられねえ。この装置はな、神すら従わせることができんだよ。」
「そんな、そんなの。おい、雫サマ、返事しろよ。なあってば!!」
あの方は、返事をしてくれない。ずっと俯いたままだ。
「じゃあな、坊主。恨むならこのクズ神を恨むことだな」
剣が首に当てられる。ああ、死ぬのか。ここで。
「相変わらず哀れだな」
一瞬、音が消えた。直後、賊が壁に飛ばされていった。何が起こったかはなんとなくわかった。あの方が、雫サマがやったんだ。
雫サマが長の元へ歩いていく
「人が神に勝てるわけなかろうが」
その後、村長と賊は王国へと連れて行かれた。どうなったかは知らない
相変わらずあの方は美しい。今日も水を両の手から溢れ出させている。今日もこれからもあなたの世話係になれるのがすげえ嬉しいです。雫サマ
何もいらない
運命って本当にあると思うんだ。
いつもと同じようにだらだら動画をみてたの。そしたら、アイドルのMV?ってのが流れてきて。人数が結構多くて誰がどれか分からないし顔もよくわかんないしさ、飛ばそうとしたの。ちょうど、サビ前のフレーズ。伸びやかな通る声。高音が得意なのか力強い音を保ちながらサビへと導いっていった。その人に射抜かれた。雷に打たれたみたいに手が震えた。なんてきれいなんだろうって。
そこから、いろんな情報を集めてコンサートのチケット争奪戦に参加したり、ファンクラブに入ったり、推しのイベントにも行った。ここまで情熱的になれたものは初めてだった。推しが笑ったらにやけるし、涙を流してたらもらい泣きする。映画でカップル役とかやったら複雑な気分になる。自分で言うのもなんだけど、感受性が豊かになったと思う。幸せすぎて世界が輝いて見える。夢の国のお姫様もこんな思考回路なのかな、なんて思った。
アイドルオタクの友達もできた。他担かつ古参で、新規にも優しく教えてくれるし同担さんも歓迎してるって。こんな優しい人に推されてるの羨ましい。いや、アイドルになりたいわけじゃないけどね。友達の推しは人気高いらしくてリアコさんも多いみたい。まあ、私の推しも結構多いんだけど。過激な人がたまにいるからそこが怖いところだよね。
それは、突然だった。推しのツアー参加中止のお知らせ。チケットとってうちわも完成間近だったのに。なんで?体調不良とかなら心配だしゆっくり休んでほしい。運営からでた詳細情報を確認する。曰く、ツアー初日からある少数のファンの行いが目に余るもので現在対応に追われているとのこと。それだけで中止になるのか。チケットが無駄になってしまった。次は行けたらいいな。
後日推しが動画を出してくれた。ツアー参加中止に関して謝罪する内容だった。ストーカー行為等がおさまらず精神的にきてしまったらしい。それを聞いてその害悪ファンにとても激情してしまった。ファンですらないとも思っているが、推しがどんな人もヤサシサを持ってるなんて言うからなんだかもう怒るに怒れない。我々が害悪に怒るのは自由だが、罰をあたえるもどんな対処をするか決めるのも被害者である推しの権利だ。推しのためが全て推しのためになるわけじゃない。そこはちゃんとわかっている。
最悪だ。炎上した。いや、勝手に燃やされたというか濡れ衣の水が引火しやすいものだったというか、内容を説明するとまた別の害悪が自分は推しに押し倒された、むりやりだったのにこっちが悪いみたいになって裁判おこされているというものだった。ファンならそんなものがでたらめであるとわかるが、批判したいだけの奴らがどんどん嘘に嘘を重ねた情報を流して今に至る。ファンが必死で説明した文を投稿したため何も知らない人たちは納得してくれているみたいだが、批判者共は未だに事を荒立てている。
バーイベがきえた……チェキ会もなくなったし手紙も直接渡せないし推しの生の顔すら当分みられない。最近の推しの投稿は出演情報とか事務的なものだけ。頑張るとか楽しみとかもあんまり投稿しなくなった。大丈夫かな。オタク友達曰く他のメンバーが代打でやってくれてるけど推しの良さが際立ってるだけかも…って。推しはファンにもグループにも必要だよ。ゆっくりでいいから帰ってきて。
久しぶりに推しが動画を出してくれた。
内容は『グループの脱退について』
心臓を鷲掴みにされた気分だ。涙が溢れてきた。怒りなのか悲しみなのか絶望なのかわからない。情緒がぐちゃぐちゃなことだけは分かる。運営もっと対応できたんじゃないの。ファンだったらファンとして振る舞うべきだったんじゃないの。メンバーは助けてくれなかったの。推しがもっと用心していればさぁ!!
違うよね。分かってるよ。分かってるけど、この気持ちをどうしたらいいか分かんないよ。一介のファンは推しの決定を受け入れる以外何もできないんだよ。あなたが全てだったんだよ。人生にあなたが不可欠だった。あなた以外何もいらないって思うこともあった。健康大事だよって言うから生活は健康意識してたよ。努力する子が好きっていうから慣れない化粧もファッションも1から学んだ。あなたのお陰で普通の人間ですって思えた。だから、一人のファンとして、あなたに幸せな姿をずっと見せてほしかった。やめないでよ。ねえ。
世界が濁って見える。すべてがどんよりしていて楽しいなんて感じなくなった。なんかもう、生きてる意味、あるかな。まあ、死ぬ気はないんだけどさ。生きる屍?はは、言い得て妙だね。今日もだらだら動画をみる。友達が新しい推し探したらって言ってた。会えるかな。無理な気がするけど。
優しい音。ゆったりとしたテンポで曲が流れる。透明感のある声が胸を温かくしていく。
あなた以外何もいらない あなたがわたしのすべてで
笑う顔も泣いた顔もリアクションも優しさも何もかもが 大好きで 大切で 大事な思い出
前を向けない あなたのところに行きたい でもあなたは言うと思う 何より大事なのは自分だろって 頑張れるよって 大丈夫 信じてるって
気がつけば頬が濡れていた。意識するととめられなくなってついには過呼吸になりそうなほど泣いていた。こんなに自分に当てはまる歌があったなんて知らなかった。自分以外にも似たように感じている人がいた。それが今は酷く嬉しかった。その歌手を調べたいという欲が小さく芽生えた。
ありがとう推し。無欲から飛び出すきっかけをくれて。これからはもう何もいらないが無くなりそうだよ。