『雨と君。』
放課後、少し暗くなった空の下を
君と2人、並んで帰っていた。
今日の数学の話、共通の友達の話、君の推しの話。
そんな他愛もない話に1つ2つと言葉を交わす。
そうしていると君が急に立ち止まった。
不審に思って声をかけると
「…雨だ。」
と言って腕にに垂れた水滴を私に見せてくる。
今日は凄い晴れていたから
降らないと思ってたんだけど…
勘が外れたみたい。
君がため息をつく。
「私、今日傘持ってないんだよね。」
「あ、私も。」
なんて言い合うと
途端にザーザーと激しく降る雨。
「うっわ…!とりま、あの屋根の下行こ!!!」
君が指を指した先は小さな公園だった。
濡れていく地面を必死に走る。
「はー…最悪…。」
私たちが屋根の下についた頃には
既に全身びしょ濡れで
必死に走った意味は無かったように思える。
濡れた制服を絞りつつ、横目に君を見た。
ぺたんと大人しくなった茶色の癖っ毛と
少し透けて肌色が見えるシャツ。
そんな君は何だか新鮮で色っぽかった。
美人って凄いな…なんて。
何度も空を見上げては顔を顰める君。
「…いつになったら止むんだ、これ。」
「さぁ?もしかしたら止まないかもね。」
「…」
もう一度君は空を見上げた。
強く地面を打つ雨、さっきよりも酷くなったかも。
黙りこくる君が急に目線を下に向ける。
すると、折角ついた屋根の外に勢い良く走った。
「は⁈何してんの⁈」
声を荒げるも遅かったようで
走り幅跳びの用量で助走をつけた後
君は思いっきり手を振り、
側に出来た大きな水溜りに飛んだ。
あまりの事に言葉を失う。
「どうせ濡れて帰るなら、今こうやっても
変わらないでしょ!」
今の天気とは裏腹に晴れた顔で笑う君。
あぁ、そうだ、そうだった。
君は美人だけど
超が付くほどの馬鹿だったんだ。
何故忘れていたんだろう…。
私の反応などどうでも良いみたいで
水溜りの中をばしゃばしゃと駆け回る君。
さっきとは違う意味で言葉を失った。
次の日、流石の君も風邪を引いた。
『誰もいない教室。』
晴天の真夏日、窓から差し込む陽光。
忘れ物をとりに来た私は放課後、教室にいた。
部活動に励む声。
クーラーのきいた教室でグラウンドを眺め、
こんな暑い中良く頑張ってんなぁ、なんて考える。
サッカー部、陸上部、野球部、テニス部…
あ、そういえば
"あいつ"
ってテニス部だっけ。
1人の友人の顔が浮かんだ。
…どうせなら部活中のあいつを拝んでやろう。
そう思い、テニス部の集まりをじっと見つめる。
すると…
ガランッ!
と勢い良くドアを開ける音が響き、
驚いた私は咄嗟に音の方へ顔を向けた。
「!何でいんのー?」
テニスラケットとボールが描かれたTシャツ。
そう。
私1人の教室に入ってきた犯人は"あいつ"だった。
そんなあいつの言葉に「そっちこそ。」と返すと
「忘れ物〜。」
と間延びした声が返ってくる。
何だ、私と一緒じゃん。
窓側の席の1番前。
あいつはそこまで歩いて、ボトルを手に取り
体の向きを変えた
かと思うと、急に足を止めて、こう言った。
「ね、一緒帰ろ!待ってて!」
そう言って私に背を向け、私の返事も聞かずに
足早に駆けて行くあいつ。
待っててって…部活終わるまで待てってこと?
後何時間あると思ってんだよ…。
半ば呆れつつ、再び1人となった教室を少し歩く。
窓側の席の1番前。
そこに足を崩して座った。
揺れるカーテン、少し柔い風。
テニス部から先程までは聞こえなかった
張りの良い高い声。
「絶対アイス奢らす…。」
1人誰もいない教室でそう呟き、
ラケットを振るう"あいつ"を眺めて
私は待つのだった。
『secret love。』
今日もあの子は笑っている。
お調子者でムードメーカーなあの人と。
お淑やかで絵の上手なあの人と。
頭の良い努力家なあの人と。
可愛くて、勉強が苦手で、フレンドリーで
少しお転婆な、明るい人気者。
裏の顔も知らずに皆んなあの子に話しかける。
何て馬鹿なのだろう。
あの人も、あの人も、皆んな
あの子に嫌われている。
人気者の裏の顔は捻くれ者だ。
私といるときは冷めた目で色んな愚痴を言いまくる。
私だけが知っている
あの子の表情、
あの子の本音。
それが可愛くて愛おしくて仕方ない。
…なんて歪んだ愛だよね。
今日も"人気者の親友"としてあの子の話を聞く。
汚くて、重くて、歪んだ、あの子への想い。
今はこんな立場だけど、時期に
私無しじゃいられない貴女にしてあげる。
何でも肯定してあげて、欲しい言葉をかけて
少しずつ、少しずつ、溶かしていくの。
嫌われたくないから
当面は何も言わないけど
いつかこの募った想いを受け止めてね。
人気者さん。
『夏の忘れ物を探しに。』
暑い暑い夏。
青い空、輝く砂浜、揺らめく潮。
そんな情景の中で
白いワンピースに麦わらを被り、佇む少女に
私は憧れていた。
漫画やアニメなどの空想上で良く出てくる、
そんな少女。
大体は主人公を見て、煌めく瞳を細め
柔らかに微笑むのだ。
そういう少女に何故憧れてたのか、
と聞かれても上手く表せない。
儚く、美しいからだろうか。
淡い淡い一夏の記憶、
それだけでノスタルジックで素敵だろう。
少し、熱が入ってしまったね。
…あなたにはこういう憧れているもの
というのはあるだろうか?
もし、余り思いつかなかったのなら
あなたがその主人公になって欲しい。
少女の私と、主人公のあなた。
もしその時が来たのなら
私と海を流れる手紙の入った小瓶を探しましょうね。