追い風
…こっち、来ないと、いいな…。
襲撃してきた敵が、本丸の中を探している。
僕達の背後に控える、主様を探している。
…来るな、来るな…。
ずっと、唱える、心の中で。間違っても声に出さないように。皆の士気を下げないように。
でも、唱えること自体は、やめられない。
…だって、こわいから。
刀として打たれて、望まれて人の手に在って――何故か分不相応な逸話を持たされて。
自分は、戦えるような刀ではないだろうに。
それなのに何故か、数世紀の時を経て、人の身を得てここに居る。
戦うべき武士として。
…ああ、身が震える。
…こわい……戦いたく、ない。
だって、痛いんだ。
痛いのなんて、誰だって嫌な筈なのに。ここでは、そして今は尚のこと、そんなことは言っていられない。主様を護るために。
それでも――こわいものは、こわい。止められない。
…あ。
主様の脇に控えていた虎くんが小さく唸って身を起こす。僕達の感覚は繋がっているから、同じものを感じたのだとわかる。
「…きましたね」
今剣くんが構えを正す。応じて、切国さんも迎撃の姿勢を取る。僕を加えてこの三人が、主様の最後の砦だ。
…いやだな。
戦うのも、痛いのも――この期に及んで、それを嫌がる僕も。
それでも、死ぬのも、それ以上に主様を喪うのも、もっといやだから――
「五虎退」
ふと、主様が名を呼んでくれた。
「今剣、山姥切国広」
まっすぐな目でこちらを見て。
「頼みましたよ、私の刀たち」
…そう言って、いつものようににこりと笑った。
はい、と、応、がみっつ重なる。
他の二人と一緒に、僕は己が身の鞘を払った。
#002
#刀剣乱舞
君と一緒に
少し先を歩く君の背中を眺めた。
大剣を振り回す力を秘めた大きな背中。
「アルド」
「ん、呼んだか?」
足を止めて振り向く君は、ほのかに笑んでいて。
ああ、嬉しいなって。
「ごめん、なんでもない」
「…そうなのか? 何かあったら言ってくれよ」
「うん、ありがと」
わたしの返事にひとつ頷いて、彼は周囲を見回し仲間の様子も確かめる。
「ノーナ、本当に大丈夫なの?」
聖衣に身を包んだ、中身は大人な少女二人が早足でやってきて両脇に並んだ。少し首を傾げて、わたしを見上げるその目は、共に心配の色。
「貴女はすぐに無理をするのだから」
「まったくなのだわ。辛かったら、すぐに教えるのだわ」
返す言葉もない。それもこんな歳下の少女に言われては尚更。
「大丈夫だよ、メリナ、チルリル。でも、ありがとう、気をつける」
笑って返すと、まだ少し疑いを残してはいるものの、彼女達はわかってくれたようだった。
やっぱり、嬉しいなって、思ってしまう。
先の見えないこの道を、進むのが独りきりではないことが。
これから、いつか一人になっても、決して独りではないと信じられることが。
君と、君達と、ずっと一緒に進めるということが。
#001
#アナザーエデン