あかつきあきら

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追い風


 …こっち、来ないと、いいな…。
 襲撃してきた敵が、本丸の中を探している。
 僕達の背後に控える、主様を探している。
 …来るな、来るな…。
 ずっと、唱える、心の中で。間違っても声に出さないように。皆の士気を下げないように。
 でも、唱えること自体は、やめられない。
 …だって、こわいから。
 刀として打たれて、望まれて人の手に在って――何故か分不相応な逸話を持たされて。
 自分は、戦えるような刀ではないだろうに。
 それなのに何故か、数世紀の時を経て、人の身を得てここに居る。
 戦うべき武士として。

 …ああ、身が震える。
 …こわい……戦いたく、ない。
 だって、痛いんだ。
 痛いのなんて、誰だって嫌な筈なのに。ここでは、そして今は尚のこと、そんなことは言っていられない。主様を護るために。
 それでも――こわいものは、こわい。止められない。

 …あ。 
 主様の脇に控えていた虎くんが小さく唸って身を起こす。僕達の感覚は繋がっているから、同じものを感じたのだとわかる。
「…きましたね」
 今剣くんが構えを正す。応じて、切国さんも迎撃の姿勢を取る。僕を加えてこの三人が、主様の最後の砦だ。
 …いやだな。
 戦うのも、痛いのも――この期に及んで、それを嫌がる僕も。
 それでも、死ぬのも、それ以上に主様を喪うのも、もっといやだから――

「五虎退」
 ふと、主様が名を呼んでくれた。
「今剣、山姥切国広」
 まっすぐな目でこちらを見て。
「頼みましたよ、私の刀たち」
 …そう言って、いつものようににこりと笑った。

 はい、と、応、がみっつ重なる。
 他の二人と一緒に、僕は己が身の鞘を払った。


#002
#刀剣乱舞

1/7/2025, 1:28:04 PM