突然の君の訪問。
⿴⿻⿸
それは、
僕が焦がれているもの。
ひさしぶり、そう僕が言う前に、君は僕の身なりをみて眉をしかめる。
僕は急き立てられて慌てて玄関へ向かう。扉を開けると、その眩しさに目を細める。
癖毛を直す暇も与えずに、立て続けに。
目を覚ますと、ピンポンが鳴る。
僕は毎晩夢をみる。それは願望を映す。たとえこの世界から君の影が消えたとしても、続くだろう。
だから僕は、柔らかな日が白いシーツに差すあたたかな朝よりも、誰もが寝静まる夜を好む。
こんなふうに生産性のないことを考えても、叱ってくれる相手はいない。その事実に気が滅入りそうになる。
時が流れるというのは、そういうことだ。
今ではもう君の匂いは家中のどこを探しても見つけることができない。
君の匂いが僕の生活の一部だった。
けれど、そんなことはありえないと知っている。
僕は君が以前のように僕を叱ってくれることを、待っているのかもしれない。
そして、もしかしたら。
ああ、もしかしたら、この習慣を忘れることと君のことを忘れることが僕のなかでは=になっているからかもしれない。
たとえ、そうする方が自分にとっては楽だとしても。
長年身体に染み付いた記憶は拭うことが難しい。
休日の朝にこうしてゆっくり過ごせるようになったのは、半月前からだ。
朝、目が覚める。僕はいつも通り一人分のベッドメイキングをしてから、緩慢な動作で立ち上がる。
海の底
░░░░ ░░░ ░░
そこはどんなところでしょう。
きみは言った。きみは笑った。
行ってみたいの。
わたしが聞いたら、きみは笑うのをやめる。
ただ、一緒にいこうと誘ってほしかったらしい。
後から聞いた話だけどね。
哀愁をそそる
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見上げると、澄んだ空に雲がひとつ。もう冬も近いと思う。鼻先がツンと痛むような風に吹かれながら、変わってゆく景色をじっと観察するのは、まァ悪くなかった。愛らしい笑い声を響かせながら、ランドセルを背負ってわたしの横を通っていくあの子たち。わたしが来た道へ向かっていく──つまり、反対方向に──もう交わることはない。 もう、戻れ(ら)ない。それは決意のようでいて、悲しい諦めでもある。わたしは、空の美しさを知ってしまった。
眠りにつく前に
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ホットミルクを用意して。ああ、部屋の灯りはつけなくていいよ。ベッドの傍の、この薄ぼんやりとした灯りがあれば。ホットミルクを飲むにはそれだけで事足りるだろう? ──いや……確かに、そうだな。御伽噺を聞かせてと頼んだのはぼくだ。子供みたいって、君は茶化さないと思ったからさ。じゃあ、御伽噺はやめにしよう。代わりに、君の話を聞かせて。 えっ、ホントにいいのかい? 冗談のつもりだったけれど、僕としては願ったり叶ったりだ。はは、怒らないで、ならこうしよう。ぼくも話すよ。それならコウヘイだろう?
うん、ありがとう。……ってぼくから? 言い出しっぺのナントヤラ? 君は口が上手いね、敵わないないや。君は怒ると怖いからね、潔くぼくから話すよ。
「
ㅤ ?」
ぼくの瞼が落ちるまで、君の瞼は落ちなければいい。
永遠に
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"あいしてる" それは君のうそ わたしの恋 ふたりの温度
"あいせない" 罪の意識 遠のく ふたりで繋いだ手
あなただけを
花束を手向ける これは餞別じゃなくて祈り 君とまた始めるための