君が私を好きじゃないのはわかっていた。
ああ、復讐だったのだろう?
君の愛した人から全てを奪った私への。
わかっていた。
あの子も彼の子どもなのだろう。
私の子ではなく、仇敵の子どもを育てさせる。
それが君の復讐。
なぁ、私からお願いがある。
あの子には本当の事を教えてほしい。
あの子の父が私ではなく、彼だった事を伝えてほしい。
彼の素晴らしさを教えてほしいんだ。
なんで?
ああ、最初は彼の子と気付かなかったよ。
だが、しばらくして気付いた。
気付いた時には愛おしかった。
そして、嫉妬に駆られ、彼から全てを奪った事を悔やんだ。
ああ、彼と共にこの子を見守りたかったと思ったのだ。この子から本当の父を奪った事の罪を知ったのだ。
今でも、こうして、病で死の淵にある今もその事が胸にある。
だが、それも私への罰であり、した事への報いなら受け入れられる。
だが、あの子はどうだ?
私の愚かさに付き合わせるのか?
それが、ただ、申し訳ないんだ。
だから、あの子には全てを語ってほしい。
その上で全てをあの子に選ばせてほしい。
それが、私の君への恥知らずな頼みだ。
ごめんなさい?
いい。
それを言うべきは私だった。
彼から全てを奪った私が言うべきだった。
どうか、あの子を頼む。
……ああ、お前か。
お前の所に行けるのか。
いい。
私はお前の所に行けない。
だが、次があるなら。
お前の事を祝いたい。
「あたし達の関係ってなんだろう?」
「どうしたの?」
「を、いや、あたしとあんたってお互いに恋人いるじゃん」
「ん、あー、そうだね。あ、ついでに言っておくよ」
「なに?」
「プロポーズした」
「ぶっ!」
「吹く?」
「え、いや、最近、喧嘩中って!?え?」
「ん、ああ。実はさ、僕の方から謝ったんだ。
そしたら、彼女笑ってさ。
君の情けない所とかわかって付き合ってたつもりなのに、受け止められなくてごめんって言って……。」
「言って?」
「その時の笑顔を自分にずっと向けてほしくてプロポーズした」
「……けっこう勢いまかせね」
「うん、我ながらそう思う」
「それで、返事は?」
「お互い忙しいし、落ち着いたり、準備したらその時にもう一回してほしいと」
「ふ〜ん、あんたはそれで良いの?」
「うん、僕もそれで良いかなって」
「じゃなくてさ。多分、あの子は勢いまかせじゃなくて、しっかりと決意をもって言ってほしかったんじゃない?だから、時間を置いて、気持ちを整理してから、もう一回聞きたいってそういう事じゃないの?あの子も不安に感じているんじゃないの?
プロポーズを利用して機嫌とりにしたんじゃないかって」
「……そっか、うん確かにそうだ。もう一回、話してみる。彼女の笑顔をたくさん向けてほしいし、それを守りたいのは嘘じゃないから。
ありがとう。いつもいつも」
「お互いさまよ。あたしだってあの人の事で……。 あ、そっか」
「どうしたの?」
「いや、あんたとあたしの関係って、結局なんだろって思ったんだけどさ。友達なんだなって」
「友達か。なんか男女の友情は成り立たないって聞くけど」
「うーん、友情からって言うより、長い付き合いからそうなったって言うのかしらね?
お互い頼りにしているけど、甘やかさないけど、困ってたら助け合う。なんか、隣に並び立つ関係っていうのかしら?それって、友達っていうんじゃないかなって」
「友達か……。確かにそうだね。うん、納得できる。じゃあさ、僕がもし彼女と結ばれたら祝ってくれる?」
「そっちこそ、あたしがあの人と結婚したらお祝いに豪華なものを期待するわよ。
あと、必ず結ばれなさい。あの子の友達としてあの子には笑ってほしいから」
ああ、あなた。
もっと、私を殺したいのでしょう?
いいわ、もっと私を憎みなさい。
あなたの瞳は素晴らしいの。
憎しみに満ちた瞳が私を火照らせるの。
そんな、瞳で見てくれるのはあなただけ。
たって、皆、私が何をしても諦めてしまうの。
私に大事な人を殺されても。
私に大切なものを奪われても。
あなたは諦めないのよね。
私を殺したくて憎いのよね。
それが、私には嬉しいの。
お願い、あなたはもう少しで私を殺せる。
だから、もっともっとあなたを苦しめてあげる。
あなたを踏みつけてあげる。
その分、あなたは強くなる。
あなたの剣は私の喉元に近づく。
そして、私と相対する。
ああ、うれしい。
私は全ての力をもってあなたを迎えてあげる。
そして、その時には私を討って。
私は悪なのだから。
罪を重ねてきたのだから。
ただただ、そうだからと生きていたのだから。
ああ、あなたとの最後の戦いはきっと素晴らしい。
きっと、恥ずかしくない英雄譚になる。
それを思うと心が踊るの。
ああ、その時を私は楽しみにしているわ。
ねぇ、でも、隣のその子は大切にして。
その子はあなたを大切にしているから。
私の知らないあなたを大切にしているから。
私を討った後はその子と幸せになって。
私を破って満たされないで。
そんなの私は許さない。
だから、私にはあなたの憎しみをちょうだい。
そして、その子は愛してあげて。
そう願えるだけで、私はとても嬉しいの。
踊りませんか?
あなたの様な身分で?
踊りたくなったのです。
一人で踊りなさいな。
一人ではいつでも踊れます。
でも、あなたと踊るなら、あなたがいないと駄目なのです。
身分不相応よ。
身分と踊りたいのではないのです。
ただ、あなたと踊りたいのです。
生意気ね。
子供のようなわがままを言うのだからそうでしょう。
失礼ね。
あなたの言う事を聞かず、自分の願いだけを通そうとしているのだからそうでしょう。
馬鹿なの?
聞き分けも無いのだからそうでしょう。
私と踊って自慢したい?
誇りにしたい事をそういうならそうでしょう。
愚か者。この夜会で私はあなたと踊りません。
そうですか。それでは、私は去りましょう。
ただし、この後、私はこの後、一人になります。その時、あなたが誘うなら。
誘うなら?
ちゃんと、エスコートしてくださいな。
私、踊りに自信がないの。