(行かないで)
「さみしい……。」
「そんな悲しい顔すんなって!ほら、また、すぐ会えるからさ。」
「……うん。わかってます。じゃあ、またね。」
「おう。またな。帰ったら連絡入れるわ。」
付き合って三年の恋人とは遠距離恋愛中です。彼とは、たぶん上手くいってると思う。
ぼんやりと彼の乗った電車を見つめる。どんどん遠ざかっていき、とうとう、目では追えない距離になってしまった。
「もうそろそろ帰ろうかな。いつまでも一人で駅にいたってしょうがないですし。」
流石にもう慣れたとはいえ、彼を見送るのが寂しいことには変わりはなかった。
「はぁ、大学わざわざ県外にしちゃったのが失敗だったんですかね……」
こんなにも会うのが難しくなるなんて。
でも、彼と付き合い始めたのは、高校を卒業するまさにその日だったから、どうしようもなかったんだけれども。
ふと、考えた。
もっと、彼に「一緒にいたい」だとか、「行かないで」って言えたら、もう少し傍にいてくれるのだろうか、と。
なんて、
「そもそも、僕なんかが言った所で可愛くもなんともないんですけどね。」
一人、寒くなった空の下で呟いた。
(どこまでも続く青い空)
死のうと思えば、いつでも死ねる、なんて。なんて悲しい言葉なんだろう。
十月二十四日。天気は快晴。現在地は学校の屋上。
思い残すことと言えば、大好きだったあの人に告白できずに死ぬこと。あと、家族を遺して死ぬこと。それから、高校を卒業出来なかったこと。あとは…、
「いや、やっぱそれくらい、かな。」
一人言を呟き終えたら、いよいよ、もう、飛ぶしかなくて。
…………
数分前まで、確かに覚悟を決めてたはずなのに、結局、あと1歩は踏み出せなかった。
「死のうと……思えないよ。私。」
でも、生きてたくない。
上を見たら、涙で青色が滲んでみえた。
(衣替え)
「は、はくしゅ……」
親友と近くの川で花火をしたのが二ヶ月前。
そして、二学期が始まってから明日で一ヶ月。
「寒くなってきたよね。」
隣で友達が笑った。そういえば、まだ、制服は夏服のままだったっけ。
「もうそろそろ衣替えの季節かもね。」
「ね。」
短い会話が続く。ふと、ぼんやりと今年の夏を振り返った。
当然のように、親友との花火は楽しかったけれど、久しぶりに会ったからか、前よりは会話が続かなかったな、だとか。
今年は海にもお祭りにも行かなかったな、とか。
「思い返せば、今年はあんま、なんもしなかったかもなぁ……」
「そう?」
「そうそう。」
今、一緒に帰ってる友達とだって来年になったら話さなくなるかもしれない。
「ねぇ、あのさ……、私たち……」
ずっと友達だよね?
そう、言い切る前に、友達はこっちを見て笑った。
「じゃあ、来年の夏はなんか一緒にしようよ!海にも行きたいし、花火とかもいいよね!あとは……」
それだけでなんだか、救われたような気がした。