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8/11/2024, 5:48:43 AM

ガタン、と体が揺れて、漸く我に反る。
気付けば、毎日の通勤で乗る在来線の終点だった。
車内に流れる終着のアナウンスに促されるが、私は電車の座席に座ったまま動けなかった。

本日、会社からリストラの宣告を受けた。

会社の上司から話を聞いた瞬間から、意識が真っ暗に落ち、記憶が抜けている。
上司の詳しい話の内容など、うすぼんやりとしか覚えていない。
その後のことは……毎日のルーティン通りに会社の仕事をして、退勤後にいつもの電車に乗ったのだろう。
意識は無くとも、または意識するまでもなく体は覚えていたのだ。

「は、は、ははは……」

渇いた笑いが零れる。
無意識に染み着く程繰り返された日常が、急に取り上げられた。
否定された。
---じゃあ、私は一体何だったの……
自己否定の津波に溺れかける寸前ーーー

ガタン、と電車が揺れた。

「!?」

驚いて辺りを見渡してみると、乗車していた列車は折り返し運転を始めたようだった。
つまり、終着駅が……最初の駅となって、再度出発したのだ。

「は、は、ははは……」

今度は先程とは少しだけ軽い声が落ちた。
そっか……そこが終点(おわ)りというなら、そこから始動(はじ)めればいいのか。

8/9/2024, 8:33:33 PM

「上手くいかなくたっていい」
嗚呼、この人は何に対して言っているのだろう。
私を抱き締めながら、同じ言葉を繰り返している。
「上手くいかなくたっていい」
失敗したリストカットのことを言っているのだろうか。
私の下手な生き方のことを言っているのだろうか。

上手くいかなくたっていい。

8/9/2024, 4:10:52 AM

蝶よ花よと言えば、蝶でも花でも望めば望むだけ与えられて、丁重に育て上げられた深窓の姫君や、過保護の中で育った世間知らずなどが思い出されるかもしれない。

もしそうだとしたら、蝶も、花も、豊かさや幸福といった、正の面でのイメージを連想させるということだろうか。

蝶は蝶でも、色鮮やかではないもの、昼ではなく夜に飛ぶものもいる。
それこそ、蝶や蛾の区別なんて曖昧で、国によっては一くくりのところもある。

花は花でも花びらを持たないものも、虫を食うどころか、花をトイレのようにして小動物の排泄物を養分にしているものもいる。

色々な生き方の蝶や花がいるのだから、場所が違えば「蝶よ花よ」も意味が異なるのだろうか。



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広がる花畑に、数多の蝶が舞っている程ではない。
蝶よ花よ、という程でもない。
狭い空き地に雑草が蔓延り、二、三の名の知らない花に蝶が一匹止まっているだけ。
「そんな、どこにでもある有り触れた光景の一部となって朽ちたい……」
「これを飲んだら続きを聞いてやるよ」
熱中症で倒れる寸前の同僚に、私はOS-1を渡してやった。