「夏の気配」
私は夏が嫌いだ。
思い出すのはいつもあの夏。
君がいなくなったあの日。
部屋に立ち込める鉄の匂い。
床に落ちた血濡れの包丁。
横たわった君の体。
遠くから聞こえるサイレンの音。
あの記憶が蘇ってくる頃、夏の気配を感じる。
「最後の声」
あなたはいつも愛してると言う。
さよならも、ありがとうも、ごめんなさいも、あなたは愛してると言う。
一度、気になってあなたに聞いてみたことがある。どうしてそんなに愛してるって言うのって。そしたらあなたは、「君が最後に聞く私の声はいつも"愛してる"でありたいから」と言った。
でも、本当に本当に最後の声は"愛してる"じゃなかったね。
「なんで」
「小さな愛」
「空はこんなにも」
君が空に行ってしまってからしばらくたって、最近はあの屋上に行っていないなと気がついた。君がいた時は、毎日のように一緒に空を眺めながら語り合ったのに。隣に君がいないと思うとなかなか行く気になれない。でも、そろそろ私も限界かもしれない。溜め込んでいた食料は底をつきかけているし、最近は本当に暑くて溶けてしまいそうだ。心なしか息も苦しくなってきたような気がする。最後に、もう一度あの屋上に行こう。これで本当に最後。
久しぶりに扉を開けて外へ出る。瞬間、コンクリートに反射した熱気と紫外線が肌を刺す。階段を一気に駆け上り、屋上へ向かう。しばらく行かないうちに、この校舎もだいぶボロくなってしまった。
ごろんと屋上に寝転がる。背中が暑くて仕方がない。まるで鉄板の上に寝転がっているようだ。眩しさに瞬きながら目を開ける。空はこんなにも青かっただろうか。君とみた景色も、もうだいぶ忘れてしまったようだ。
そのまま空を眺めていたら、いきなり周囲が輝きに包まれた。あ、隕石。
※「空に溶ける」と繋がっているつもりです。
「子供の頃の夢」
子どもの頃、空を飛ぶのが夢だった。
小学校で七夕の時にもらった短冊。拙い字で書かれた空を飛びたいの文字。自分の夢とその理由を紹介する時、空を飛んで地球の果てまで行ってみたいと話した無邪気な自分。
今日、きっとその夢が叶う。だからこそ思い出した楽しかった頃の記憶。
ずっと、ずぅっと、なんで生きてるんだろうって、生きてる意味はあるのかなんて考えていたけど、最後に夢が叶うなら、良かったね。
じゃーね。