靴のまま水溜まりに入ること
虫を素手で捕まえること
ケシカスでねりけしを作ること
ドッジボールのルール1つで大喧嘩になること
自由帳だけで何時間も遊べること
物語の続きを自由に想像できること
花丸のために必死に頑張れること
子供の時は当たり前だったことが、当たり前じゃなくなったのはいつからだろう。
境界線はどこにあったんだろう。
子供のようになれたら、と思う。
その反面、それらができなくなった自分はもうすっかり大人なのだと。
時々、そう思う。
「小テストの結果どうだった?」
「...30点」
「出る問題分かってたのに、よくそんな点数とれたね」
「むしろよく3問当てたと思うよ私は!!」
くだらない話。笑い話。失敗談。とりとめのない話。
天気、テスト、部活、ご飯、友達、エトセトラ。
話題が尽きることはない。
帰り道、時計の長針1周分にも満たない時間。
私と君の時間は、変わらない。明日もきっと。
明日も、明後日も、来週も、1ヶ月後も変わらない。
なら、来年は? その次は? 違うクラスになったら? 卒業したら?
......君に、恋人ができたら?
それがイヤなら、イヤだと思うなら。
イヤだと感じてしまうなら......。
最近、本当に集中できなくなった。
動画は10分でも長く感じるし、短編小説ばかり手に取ってしまう。
ずっと気になってた映画のDVDを見ている間に、何度もスマホを触ってしまう。
良くない。非常に良くない。
集中していて、周りの音が聞こえなくなる瞬間が、私の生活から消えてしまった。
せめて、せめてその環境を作るくらいしなければ。
テレビを消して、音楽を消して、スマホは遠くに置いてくる。
謎の不安と、あの誘惑を消してやったという優越感。
さぁ、この静寂に包まれた部屋で何をしようか。
『通り雨だろうし、すぐ止むだろ』
「って、言ってたのはどこの誰でしたっけね」
そう言いながら、隣の男を睨み付ける。
分かりやすく目を逸らされた、この野郎。
雨が降っている。かれこれ20分以上。
降り始めよりもかなり強くなって。
こんなことなら、濡れるの覚悟でダッシュすればよかった。
明日提出の課題をやらないといけないのに。
妹に狙われているアイスが冷凍庫に眠っているのに。
昨日録画したドラマを早く見たいのに。
最悪。超最悪、な“はず”なのに。
「早く止まねぇかなぁ」
ーー悪くない、だなんて、そんなこと。
いつだって、キミは私の先を行く。
小さい頃からそうだった。
補助輪なしの自転車も、逆上がりも、平仮名を覚えるのも、レギュラーに選ばれるのも。
全部全部、私より先に達成してしまう。
ジャングルジムもそうだった。
2段目に足をかけて半べそになる私を置いて、キミはスルスルと1番上まで登っていく。
「良い眺め!」と笑うキミが羨ましくて、妬ましかった。
あれから何年もたったけれど、私は今だにキミと同じ所まで行けないようで。
懐かしのジャングルジム。
老朽化だの、子どもが落ちると危ないだのと、今度撤去されるらしい。
3段目に足をかける。手汗が止まらない。怖い。
うん、一生無理だな。
それでもいいと思えるくらいに、私は大人になっていた。