それはとある夏の日
君と僕が出会った運命の日
入道雲の下で友達と笑いながらアイスを食べる君に
僕は一目惚れしました。
どうしようもない恋心でした。
名前も学校も学年もなにもかも知らないのに
いつの間にか目で追っていました
すれ違えばシトラスのいい香りが
顔をくすぐる長いポニーテールの髪が
愛おしいほどに好きでした
君がこちらを振り向くたび
僕のことじゃないなんて分かってはいたけれど
向けられる視線が
全て僕のものと勘違いしそうでした
その真っ白い肌と華奢な体は
いつか泡となって消えてしまいそうでした
言葉には表現できないほどだった
つい、手を握ってしまいそうだった
頭がおかしくなりそうだった
それくらい君を愛していた
だから言われるまで気づかなかった
無意識だった
包丁を手にして君のもとへと向かっていた
君から出る真っ赤な血の滝すらも美しかった
綺麗な目から涙がこぼれ落ちる様子も愛おしかった
絶望に満ちている表情すらも好きでたまらなかった
全部僕の手によって生み出せたものだなんて
死ぬほど嬉しかった
僕の手で君を殺してやりたかった
永遠に僕のものにしたかったんだ
ああ、もう満足だ
パトカーのなる音と周囲のざわめきの声
それすらも聞こえなくなるような
人生で一番心地よい体験
後悔も、罪悪感も、微塵も感じていなかった
嬉しさで胸が張り裂けそうだった
骨が折れるくらいに君を抱きしめながら問う
「君は、僕のことを愛していたよね?」
噂というのはすぐに広まって
不幸話、恋愛話、全部全部話の種になる
「ねえ、あの子A君と付き合ったんだって」
「あの子、先生に呼び出されたんだって」
他人の話をしてなにが面白いんだろう
それを話したところでメリットはなんにもないのに
「え、好きな人いるの!?誰!?」
「誰にも言わないからさ、教えて!」
「約束!!」
どうせ私もみんなのネタにされるだけだけど
関わりを途絶えさせたくないからって嘘を吐く
「わかった、約束だよ。」
みんな"約束"なんて最初から守ってるつもりはない
そんなものただの口先だけでの言葉と変わらないから
「え〜〇〇君なんだ〜秘密にしとくね!」
明日には、広まってるんだろうなぁ。
傘の中の秘密
それは誤差のような雨
傘はささなくてもいいかな、なんて思ってたら
隣の君は女子力高めだね、傘なんか持ち歩いて
「一緒にはいる?」
え、いいんですか、相合傘しちゃって
ちょっと頬を赤らめるからそれは初めてなんだろう
「いいの?ありがとう」
ごめんね、一歩リードしちゃった。
傘の下には二人の後ろ姿
たまに傘が揺れて笑いあう声が聞こえる
何を話しているだろう、どんな顔をしているだろう
それは僕達だけの秘密
やっぱり変だ
君がいると鼓動がおかしいくらいに鳴って
君と話すと自然と安心感が生まれて
どうしましょう?相手は同性の友達です
しかもその子には大切な親友がいるんだって
勝ち目なんてひとつもないのに
もしかしたら、なんて思ってる自分がいる
君のインスタには親友とのストーリーがあがって
諦めかけていたのに君からのDMだなんて
卑怯です、この想いを捨てきれません
好きになって嫉妬してまた好きになる
ねぇ、私こんなにも君のことが好きなんです
なのにどうして
どうして君は私の好意に気づいてくれない?
私が今まで君にしてきたことが
全部空に溶けて消えていく
どうせ覚えていないんでしょ?
私の事なんて眼中にもないんでしょ?
いっそのこと君を嫌いになろうとしたのに
どう頑張っても
嫌いになることができないんです…
まって、置いていかないで
いや本当は行きたくないんだけれど
まって、私の名前は呼んでくれないの?
いや呼んでくれても別に嬉しくないんだけど
まって、私を空気にしないで
そんなに私が必要ないの?