あなたがすき

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10/16/2024, 11:40:58 AM

目を開けないまま色を知る
それはいっとう美しい命の輝き
照さずとも見える砂浜みたいな愛しい光
目蓋の裏に映る景色全てが私のもの
わたしだけの、やわらかなひかり



どうやら自分自身の命が、私を照らし続けているようだ

やわらかな光

10/15/2024, 11:01:46 AM

夢から覚めても夢
鋭い眼差しの向こう側
遠くで破裂した火の花を描く
鋭い眼差しの向こう側
水面に映る月より遠かった
鋭い眼差しに蝉騒 耳鳴のような
真暗の彼方で燃える花
こぼれ落ちる水滴ひとつひとつが月のかけら
それは言葉よりも尖った刃の切先
いつか覚めるなら夢




はたして本当に目覚めているのかがわからないのだ。


鋭い眼差し

10/13/2024, 2:30:34 PM

(昨日のお題:放課後の続きのようなもの)


突然頭の上で鳴り始めた電子音に飛び起きる。内臓がヒヤリとしたのは一瞬で、すぐに音の出所を手にスイッチを切った。そして瞼の重さに負けてもう一度枕へと顔を埋める。
午前6時。夜の肌寒さが残る空気と、昇ってきた朝日がカーテン越しに当たって頭をすっきりとさせていく。ぼんやりとした耳をすませば僅かに窓の外からチチチ、と小鳥の声が聞こえてきた。これが漫画やアニメであれば清々しい朝とでも称するのだろうが、夜更かしを常とする人間からすれば恨めしいだけの朝である。再びやってきた睡魔に襲われつつもなんとか布団から這い出た。大きなあくびを一つして、部屋を出る。

自業自得とはいえなんとも億劫な朝だ。
そう毎日思うものの、しかし睡眠時間を増やそうとは思わなかった。生きている時間を楽しむには、睡眠はあまりにも人生を圧迫しすぎる。他の人からすれば無駄な時間も、自分にとってはなくてはならない時間なのだから、それを削るなんてことは到底考えられなかった。
そんな私は他者から言われることはもちろん、自覚済みの変わり者だ。
特に絵を描くことが好きだから、何よりも観察することに強いこだわりを持っている。人の手と目で得られる最上級のリアリティを追求したいのだ。その時の感情を含めて。
その影響は睡眠時間どころか普段の生活すらガリガリと削っているが、学校から帰って一度短い昼寝を挟むことでなんとか調節をしようとは努力している。とまあこんな感じで、私のほとんどの朝はいつも睡眠不足から始まっていた。

学校へ行く支度をしながら、いまだに覚醒しない頭で昨日のことを思い出す。いや、昨日だけじゃない。その現象は記憶が正しければ二週間ほど前から欠かさず起こっていたはずだ。何度思いだしても笑ってしまうような不思議な夢。いや、夢、だろうか。あまりに鮮明なせいで現実なのではと自身を疑ってしまうような、そんな夢。ブラウスのボタンを掛けながら、いやいや何をそんなバカなと首を振った。だってそんな、あり得ない。
_昼寝をしていたら見た事の無い教室にいて、母そっくりの女の子がいるなんて!
そんなこと、夢以外の何者だというのか。いくら何でも睡眠時間の削りすぎだろうか。そう笑って、日頃の睡眠を見直そうかななんて反省して、しかし残念ながらすでに二週間が経とうとしている。流石に病院にお世話になった方が良いくらいだ。笑っている場合ではない。

けれども、と思う。解せないのはなぜあの教室は見たことの無い作りをしていて、母そっくりの女の子が着ている制服も見たことが無いデザインなのかという点だ。確かに絵を描くことも観察することも好きだが、あそこまでリアルに見たことの無いものを夢の中で作り出せるだろうか。壁なんて見たことない不思議な素材で、まさか超能力や予言に目覚めたかなんていうレベルだ。最近は早くに寝付いてみたり、よく眠れると聞いた軽い運動やハーブなんか試してみたが一向に改善する気配がない。
だからなぜ、毎日同じようなあの夢を見続けているのかなんて、わかりそうもなかった。どうせなら好きなクラスメイトとか、かわいい猫の楽園とか、そういう夢なら楽しめたものを。誰に相談できるわけでも無い愚痴っても仕方のないことを内心吐き捨てて、鞄を手に家を出た。いってらっしゃいと見送る母の声に背中越しで返事をしながら。


変わり者を自称する私が例の夢を見続けてからなにも、ただ時を過ごそうと思っていた訳ではなく、色々試そうとはしたのだ。しかし大して動き回ることはできず、まっすぐ窓の外の見慣れない景色ばかりを眺めるくらいが精一杯だった。
そうするうちにまさかとは思ったものの、これという確信が持てなくて先送りにしていたのだが、どうせただの夢なら夢で良いし、もし本当にそうだったら面白いだろうと思って実行したことがある。
視線の先に、木を植えてみるのはどうだろうか。
いや動けないのではと思われるかもしれないが、別に夢の中で行うわけではない。起きているうちにこの場所と似たような景色を探して、そこに小枝を差し込んでみようと思う。
つまり、この夢は未来なんじゃないだろうか。と私は考えたのだ。
いくら見慣れないといっても、まわりを見渡す地形や校舎の感じがあまりにも現実と似ていたし、それにしては綺麗すぎる。そして極め付けは母似の女の子。それは母に似ている、というより私に似ている気がしたのだ。つまりあの子は、未来の血縁、あるいは子ではないだろうか。
自分でも意味不明なことを言っているとは思うのだが、こんなヘンテコな夢を見るくらいなのだからこれ以上何が起こったって不思議ではない。
そして、それはしばらくして実証された。

彼女はいつのまにか近くに立っていた。
初めの頃はまだしも、最近は話しかけるどころか近寄ることも無かったので驚く。
「ねえ。なにをみているんですか?」
彼女が返事を必要とする言葉を発したことに更に驚いた。そして問われて、なんと言おうかすこし考えて、やめた。なんにも見てなんていなかったから。確かに埋めたはずの小枝も、あると思った木も、そこにはない。だから少し考えてから、静かにその方向を指した。
すると彼女が怪訝そうに、「ただの、木?」と言うものだから、思わず笑ってしまった。
彼女には見えているのだ。私が植えた小枝は確かに成長して、彼女にだけ見えている。想像通りなら、間違いなくここは未来で、彼女も未来に生きているのだ。
ああ、なんておかしいんだろう!いま目の前でこちらを睨め付けているその目も、初めの頃に一方的に吐かれた嫌味も、全部未来で直接向けられるものかもしれない。未来の娘と会話するとは、なんて不思議な感覚。誰かにこのおかしな夢を伝えて見たいけれど、普段から変わり者のわたしが何を言ったところで、きっと誰も信じてはくれないだろう。
そして次第にニヤニヤしだした彼女を見て、この変人具合は絶対に私の血縁だ!と確信していた。

「はじめまして、あなたの名前は?」
差し出されるその手を握って、自身より少し冷えた指先を心配する。まさか高校生で親の気持ちになるなんて、と感動すら覚えた。そしてなんて言ってやろうか考えて、素直に名乗った時の反応を想像して私もついニヤリとした。



きっとあなたはこの先、わたしの親の顔しか知らないのだから。今だけは、対等な子供のように笑ってやろう。




子供のように

10/12/2024, 12:46:35 PM

放課後、ふと気づくと教室の窓に腰掛ける女がいる。


少なくともクラスメイトではない。
教室には私だけで、ドアは閉まっていたし入ってくる音も聞こえない。ここは2階だが、もちろん窓からの音ひとつだって聞こえない。
毎日行われるそれに少し警戒して鍵をかけてみたりしたけれど、それを嘲笑うように彼女はいつのまにか黒板横の端の窓に腰掛け何かを見つめている。
初めの頃は話しかけても何も言わないし、まさか幽霊ではと思い逃げたりしてみたけど、貴重な自習時間を霊もどきに使うのもアホらしくなっていつしか気にしなくなった。彼女はよく見たら影があるし髪や服が風に揺れるから霊ではないのだと思うが、そも制服が違うせいでより正体がわからない。そして、何よりなぜだかどこか見覚えのある顔をしているのが不気味で、まさか霊ではないかと思う要因の一つだった。しかし彼女はただ放課後の窓辺に現れては、じっと外の一点を見つめて去っていく。瞬きの合間に消えるその瞬間だけ、微笑みを私に残して。

鍵をかけても窓を監視しても無駄だった。図書館で在学中の生徒や卒業生、果ては近隣の学校の制服。どんなに調べても彼女の手がかりは何ひとつない。もう一週間も経った。いっそ、諦めてしまおうか。
そうだ。元々は集中できる自習の時間だったはずなのに、いつのまにか彼女を突き止める時間に変わっていた。しかしどれだけ探っても彼女の存在するという証拠のかけらすら見当たらない。それでもう良いじゃないか。毎日毎日いつのまにか窓にいるのは気になるが、それだけだ。彼女は何も言わず静かに座っているだけだ。なんやかんやで彼女が現れてから二週間目なのだし、良い加減慣れてきた。ただ気にしなければいいだけだ。

チラリと窓へ視線を向けて、けれどなんの反応も得られないのは今更だ。彼女がこちらを見るのは去り際の瞬きする一瞬だけ。それ以外は出てってくれないかと話しかけてみても、隣に立ってみても消しゴムを投げてみても、あまつさえ少しの嫌味を吐いてみたって気づいていないかのように真っ直ぐ外を見つめているだけなのだから。
まったく、ここは呪われてでもいるのだろうか。

手元のノートに碌に集中できずに大きく息を吐き、しかしわざわざ教室を移動したくはないと意固地になる。そんなことをすれば霊かどうかもわからないのに恐ろしくて逃げている小心者みたいじゃないか。もしかしたら彼女は壮大な悪戯を仕掛けている生徒かもしれないのに、そんな噂の種になるようなことはしたくない。けれど残念ながら、これ以上の案はなかった。完全にお手上げだ。
今度は小さく息を吐き、今日もそこにいる彼女を眺める。
彼女は、一体何者なんだ。


「ねえ。なにをみているんですか?」
問いかけていた。言いたいことは沢山あったのに、口をついて出たのは無意識の言葉だった。けれど返事が返ってくるはずもない。分かってはいたがあまりに真剣に見つめるものだからそれほど気になっていたのかもしれない。
どうせ返ってくるはずもない独り言に、バカバカしいと席に戻ろうとした瞬間、普段は微動だにしないはずのそれが、明確に動きを見せた。
ゆっくりと外に向けられる人差し指。
指し示すそこには青々としたなんの変哲もない木。
「ただの、木?」
消えるその瞬間しか見せたことのないはずのやわらかな笑顔がこちらに向けられていた。考えずともわかる。これは明らかに、わたしの問いに対する答え。
聞こえていた、理解していた。知っていたのだ!
感動にも似た、肌がゾワリとする感覚が全身を覆って、少しだけ吐き気すら催した。
ではなぜ。今まで一度も、彼女はなんの反応もしなかったのだ。あんなにも声をあげただろう。物を投げつけてみたし、反応するようにわざとらしく嫌味まで言って見せた。それなのになぜ今になって反応を返すようになったのだ。
手のひらで踊らされているような、馬鹿にされているような不快感。敗北感。やはり悪戯している他学年の生徒なのではないか。思えば当初から彼女には振り回されてばかりだ。怒りを隠すこともせず睨みつけていると、彼女は返事のないことに小首を傾げてまた外へと向き直った。
私を気にも留めない態度に苛立ちは増し、けれど冷静な思考の一部が疑問を浮かべる。
今一度この2週間ちょっとのことを思い返してみるが、果たして自分は今まで純粋な疑問を彼女に向けたことがあっただろうか。
出会い頭は「幽霊??!」と叫び逃げ惑い、しばらくは出てってくれやらここはあなたの教室じゃないやら色々話しかけてみたが、なんの手応えもないことを悟るとそれ以降は話しかけるなんて手は考えもしなかった、と過去の行動を思い出した。ふつう、あそこまで無反応なのもおかしいだろう。けれど、それならば初めからこうすればよかった。

「はじめまして。あなたの名前は?」

先ほどとは打って変わりやっと進展しそうなことに急上昇した自分の機嫌に、口角がゆるりと上がっていく。
声は聞こえている。理解している。そして、反応も返ってくる。まだお手上げと言うには早かった。負けてなんていない。怒りが喜びに変わっていく。
まずは彼女について知ろうと話しかければ、驚いたように目を見開いてこちらを向く。するとなぜか、今度はニヤリと悪戯するように笑っていた。
そして差し出した手を握った彼女の、自身より温かい手に私も少しだけ目を見開いたのだった。まさかこの後もっと驚くことになるなんて思わなかったけど。


  執着していたのはいつのまにか私だった。
  いつだって受け入れるようなその笑みに、
  恥ずかしいことに私は甘えてしまっていたんだ。





放課後

10/11/2024, 11:05:04 AM


人生は即興劇で、だれもが同じ舞台の上に立っている。
あなたにはどんなエピローグが、終幕があるだろう。
わたしはもう決まっている。
カーテンコールであなたの名を叫び、
だれよりも大きな拍手を送るのだ。



カーテン

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