お茶の時間

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11/13/2023, 4:14:08 PM

この気持ちはなんだろう。
昨日からあの言葉が頭から離れないでいる。
何度も、何度も。
頭の中で、君の声が木霊する。


放課後、屋上。
夕焼けに照らされた世界はどこまでも真っ赤に燃え上がっていて、それでいてとても美しかった。

「あ、飛行機雲」と呟く君は、はるか彼方へ飛んでいく飛行機を指差しながら、その手を銃のように構えるなり撃ち落とす真似をした。

「何それ」
「んー、なんか飛んでるもの見るとさ、撃ち落としたくなるじゃない?」
「いや、ならないと思うけど」

ゆっくりと夕陽が遠くの山の向こうへと落ちていく。
僕は呆れた顔をするフリをして、緊張を腹の底へと無理やり押し込める。
この真っ赤に燃え上がった世界に、まるで僕と君だけが取り残されたような錯覚を覚えたものだから、些か緊張なんかしている。
帰宅部の僕はすることなんてないから、たまに息抜きにここへ来る。そうしたら、珍しく君がやって来たものだから、驚くのと同時にそれがとんでもない幸運を引き寄せたのではないかと思ったんだ。

どうか誰も来ませんように、と神様なんか信じていないくせにこういう時だけ都合よくお願いをする僕は本当に哀れだよな、などと思いつつ。

なんだかご機嫌な様子の君は、今度は僕に手の銃口を向けてきた。

「ねぇ、撃たれるならどこがいい?」
「え?」
「やっぱり頭か心臓かしら?」
「そりゃあ、苦しみたくないし、撃たれるなら急所のほうが……ってなんだよそれ!?そんなもの、人に向けちゃいけません! しまってよ!」
「まじめな奴だなー」

クスクス笑いながら静かに銃口を降ろすと、君は何かを思い付いたかのような顔をして、そのまま持ち上げる。

「私だったら、こうするかな」

自分の頭に向けて、パァン、と呟いた。
多分、日が沈むのと同じくらいの時だったと思う。
君の微笑みが、この燃え上がった世界の中で一際業火のように燃え盛っていた気がしたから。
それはほんとに一瞬のことで、僕の勘違いかもしれないのだけれど。
呆気に取られていた僕は、君を見つめることしかできなかった。
この時何か話せていたら、結末は変わったのだろうか?

「あーあ、終わっちゃったね、夕焼け」
「え、あ、そうだね」

君に見惚れていたのがバレたくなくて、慌ててフェンス越しに校外を見下ろした。
燃え上がっていた世界はあっという間に消え去り、暗い闇がじわりと侵食し始めていた。

「最後に会えたのが、貴方で良かった」
「そ、そうなんだ?」
「うん」

驚いて君の方へ顔を向けると、うーん、と君は両腕を空へと伸ばしながら大きく伸びをした。
すると何か吹っ切れたかのような表情をしたままくるりと向きを変えて歩き出す。

別れの挨拶もなしに行ってしまうのだろうか?
それに先ほどの言葉の意味も気になるし、呼び止めて理由を聞きたかった。
でもそんな勇気はあるはずもなく、見届けることしかできずにいた。
屋上の入り口の扉を開けると、君は静かに振り返って、

「また会いましょう」

と言った。
君の唇が、綺麗に弧を描いていたのがとても印象的だった。
バイバイ!と僕に向かって手を振ると、君は扉の向こうへと消えた。
それに対して、僕は暫く動けずにその場に立ち尽くしたままだった。
次会ったら、聞いてみようかなと思いながら。


けれど、あの日以降、君には会っていない。
君の席には、代わりに花が飾ってある。


今もまだ、君の言葉が何度も僕の頭の中で繰り返されている。

11/12/2023, 12:10:32 PM

静まり返った中、ミヤは忍び足で厨房へと忍び込んだ。
目的はただ一つ。
甘いものを食べるためだ。
いや、分かっている。
こんな夜更けに食べるなんてよくないってことは。
初めはなんとなく目が覚めて、再び眠ろうとしたのに眠れなくて。
しまいにはお腹の虫が鳴ってしまったことで、ミヤは思わず長い溜息を吐いた。

そういえば昨晩は緊張のあまり、食事が喉を通らなかったよなと思い出して、また小さくため息をつく。
さらには思い出したくないことも思い出して、1人頬を赤く染めたり青ざめたりと余計なエネルギーを消費したところで、またお腹が空腹を訴えてきた。

……とりあえずなんか食べよう、と。

昨晩のデザートでも残っていないかなと厨房を物色していると、冷蔵庫にあったのはプリン。
うわ、ラッキー!と呟きながら手に取るとスプーンを拝借し、一口掬い上げる。
ここまで来て葛藤がミヤの中に渦巻いた。

あぁ、なんてスリルなの……

夜更けに食べる背徳感を感じながらも、本能には逆らえず思わず頬を緩ませながらゆっくりと口に含む。
甘い卵とほんのりと焦げたカラメルの苦味が口の中いっぱいに広がって、幸せが一気に身体を駆け巡る。

……何してるの、ミヤ?

今まで1人だった筈、なのに。ミヤの背後から耳元で囁く、低音の囁く声音が聞こえると、その場で固まってしまった。
ゆっくりと身体を抱きしめられると、首元に擦り寄ってきて、微かにくすぐったい。
よりによって、この人に見つかるとは。

えっとー、寝れなくて、お腹が空きましたので、何かないかなーって、あ、あははは……

だからといって、こんな格好で?
こんなに冷えてる。

大丈夫!食べたらすぐ戻りますからぁっ!?
というかなぜ貴方様がこちらにぃっ?

身体を抱えられ、拉致された。
ああ、なんか色々な意味で終わった気がする。

君の気配がしたから。

いや、とりあえずプリン、食べさせて欲しいんですけど。