NoName,

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6/14/2024, 3:56:22 AM

休日に公園までの散歩をするようになって、花の移ろいに気付くようになった。
心に余裕ができたのか、疲れ果ててまだ30前なのにすでに枯れてきたのか。ま、前者ということにしておく。

今頃はあじさいだ。「紫陽花」と書くんだな。なんかイメージ的にわかる気がする。
でも何だこれ、この一株だけ、他のと違う。緑から白くなんの?形もなんか丸くない。
よし、ググってみるか。
しゃがみ込んでスマホのレンズを花に向けた。

すると何かが俺の背をつついた。
「何だ?」振り向くとガキがいた。
なぜか俺につられて誰もいない後ろを振り向いている。アホだが、おもしろい。
「何か用?」俺が問いかけると、ガキは俺に向き直って言った。

「おじちゃん、カタツムリさんのお写真撮ってるの?」
おじちゃん…それに「お写真」て。
今どきのガキ、もといお子さまはこういう言葉遣いすんのか、ヘー。
「カタツムリじゃねぇよ。つーかカタツムリ?どこ?」見わたしてもいない。
見知らぬお子さまは、「こことね、ここ、ほらここにも。」立て続けに3匹指さした。
「お前、良く見つけられるな。」と俺が言うと、そいつはドヤ顔で小鼻を膨らませた。

ガキの目の高さに広がる世界は俺の見ているものとは違うのだろう。自分が何を視たいのかも。
そいつはカタツムリを1匹、あじさいの葉ごと捕まえると、母親であろう女のところへ走って行った。
「カタツムリのおじちゃんバイバイ。」
おじちゃんでもねぇし、ましてやカタツムリのおじちゃんじゃねぇのよガキんちょ。

「ま、いっか。」
気づけば俺とあじさいにポツリポツリと雨が降り出していた。


お題「あじさい」

6/13/2024, 4:00:42 AM

前略
日頃よりお目汚しの投稿をお許しくださっている皆様ありがとうございます。
私の投稿につきましては、好き嫌い賛否様々あると思っています。その中にあって、「もっと読みたい」と言ってくださる方々には心からの感謝しかありません。
また、長く続けていらっしゃる方の作品を遡って読むのが楽しみの1つになりました。
とても秀作が多くて、「お気に入り」も増える一方です。
このアプリを始めて、生活の時間配分が変わりました。当面は四苦八苦しながらも、楽しく(これが最も大事)続けていけたらなと思っています。


皆様 運営様
今後も引き続き、広いお心で私の「作文」とお付き合いいただければ幸いです。
何卒よろしくお願い申し上げます。
最後になりましたが、皆様くれぐれもお身体大切に。
                 かしこ
六月吉日



お題「好き嫌い」

6/11/2024, 10:47:03 PM

この街とも明後日でお別れだと思うと、つい感慨にふけってしまう。
毎朝1時間半、ラッシュアワーの電車との戦いの末たどり着くこの会社で、定年を迎えるのだ。
終身雇用という言葉がまだ生きていた時代に就職した。家のローンや子供たちの学費を考え、転職に踏み切ることなく我ながらよく頑張ってきたと思う。

退職後に自分の半生を自費出版する人たちを小ばかにしていた己を反省する。今ならその気持ちがわかる。何か偉大なことをなし遂げたわけではないが、困難を乗り越え完走した達成感が自負になっているのだ。

流行病に関しての外出制限がなくなったとはいえ、まさか部署の何人かで「ささやかな送別会」を開いてくれると聞かされた時は驚いた。俺なんかのために。
…嬉しいじゃないか。
最終日に妻をねぎらう花束の手配もしたし、このデスクの私物もあらかた持ち帰った。
明日の会議には俺は出ないと言ってある。これからの諸君にかかっている。頑張れよ。

この街の減ってしまったネオンともおさらばだ。
俺は今夜の送別会で、とことん飲むことにした。



お題「街」

6/10/2024, 11:07:13 AM

「やりたいこと?将来とか今度キャンプに行ったらとかじゃなくて今?」

あぁもう…この人は。

2人きりのこの状況で、「ヤりたい」に聞こえてめちゃめちゃドキドキしちゃったじゃないか。
いやもちろん、君はそんなつもりで言ったのではないのだろうけど。
僕はいつも狙っているのに、君ときたら。
僕のほうが何倍も君を好きだから悔しいな。
そうだ!お仕置きだ。

「あのさ、僕が君と同じ健康な19才の男子大学生ってことわかってる?それに僕ら付き合いはじめたばかりだよね?その上で2人きりの今、ぼくに“やりたいこと”をきいたわけ?なんて大胆。もしかして君は僕を誘ってる?」

「あっ、って何?何で顔赤くなったの?あれ、耳まで赤くなったね。君、自覚なく恥ずかしいこと言ったって、やっと気付いた?君が今想像したこと、言ってごらんよ、さぁ。」

本当は僕は今日君と、明日の2コマ目の経済学のレポートを仕上げるつもりだったんだよ。君も終わってないって言ってたろ?

でも後回しだね。だって僕はもう我慢できない。


お題「やりたいこと」

6/9/2024, 8:08:34 PM

夫が突然の交通事故で亡くなってから、私の毎週日曜の朝の日課が変わった。

夫が健在の時は日曜日だけ、2人で早朝散歩に出ていた。そして歩いて30分程の所にある喫茶店でコーヒーとモーニングで休憩して帰る。ただそれだけ。たくさん会話があったわけではない。でも土曜日に夫婦喧嘩しても、どちらもごめんも言ってないのに翌朝の散歩は2人で歩いた。

いろいろなことが落ち着いて、日曜日朝の散歩を再びはじめた時、どうしてもその店に行くのが怖かった。現実を突きつけられることが。

私は散歩ルートを変えることにした。
今までと反対の道に行けば、40分くらい歩くとファーストフードのお店があったっけ、コーヒーもあったはず、そこで休憩でいっか。

ところが20分位歩いたところで小さな喫茶店を見つけた。ちょうど営業中の看板を女の人が出しているところで、私は彼女に声をかけた。
「あの、入っても?」
「おはようございます。どうぞ、いらっしゃいませ」

こじんまりとした店に入るとコーヒーのいい香りが立ち込めていた。
「その奥のソファ席はいかがですか?」
窓際の1ヶ所はテーブルを挟んで一対のソファ席になっていた。勧められるままに、1人掛けの茶色のソファに腰掛けると日当たりの良いその席は、同じく茶色のクッションが太陽の光にあたためられていて少し温かかった。
「朝はまだ冷んやりしますね。メニューはこちらです。モーニングもありますのでよろしければ。」そう言ってにこやかな笑顔で彼女は水を置くと下がっていった。
私が冷えているのかもと考えてこの席を勧めてくれたのだろうか。確かに心も体も冷えていた私には、その気遣いが胸に染みた。

さてさて何にしよう。
私がメニューを真剣に見始めた時、ふいに「俺にも見せてくれよ。」という夫の声が聞こえた気がして顔をあげたけれど、目の前のソファにはただベージュのクッションただあるだけだった。


お題「朝日の温もり」

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